第160章:異様

「私はね、生まれつき大きな野望なんてないの。お金が多ければ良いとも思わないし、平凡な生活が私にとって一番の幸せなの。この何年間か、母と二人で大変だったけど、充実していたわ」

「そう、あなたの言いたいことはわかったわ」

「ご理解いただき、ありがとうございます」

「でも、はっきり言っておくわ。もし後で考えを変えるなら、私の味方になってほしいの。もし神谷香織たちの側につくなら、その時は私たちは敵同士になるわ。そうなれば、私もあなたを潰すしかないわね」

「わかりました」青木岑は頷いた。

「いいわ、賢い子ね。気に入ったわ」

今回は青木岑を味方につけることはできなかったが、神谷香織を助けないという意思表示はしてくれた。

それで小林紅もだいぶ安心したが、とはいえ、青木岑はまだ若い娘だ。将来考えを変える可能性もないとは言えない。だから彼女は警告も込めて、敵になれば容赦しないと言い渡した。

青木岑を脅すような意味合いだったかしら?

青木岑もそれを察していた……

「もし考えが変わったら、いつでも私を訪ねてきてちょうだい」小林紅は付け加えた。

「はい」青木岑は頷き、その後辞去した。

一階のエントランスで青木重徳に出くわすとは思わなかった。

彼はオレンジ色のフェラーリ488を運転していて、助手席には体つきの良い若いモデルが座っていた。

二人が車から降りると、モデルは甘えるように青木重徳の腕に絡みついた。

二人は笑いながら中に入ってきて、遠くから青木岑は青木重徳の軽薄な様子を見ていた。

彼は周りのスタッフなど目に入らないかのように、モデルの体を上から下まで触っていた。

「おや、見間違いかな?うちの岑ちゃんじゃないか?」青木重徳は青木岑を見つけると、目に隠しきれない興奮を浮かべた。

「人違いです」青木岑は声を低くして言い、すぐに出口へ向かった。

西尾聡雄は彼女に言っていた。青木重徳を見かけたら必ず避けろと。彼は危険だからと。

まだ青木重徳のどこが危険なのか実感はなかったが、青木岑は西尾聡雄の言葉は間違いないと知っていた。

彼は理由もなく人のことをそう言うはずがない。寺田徹のことさえ避けろとは言わなかったのだ。

つまり、青木重徳は西尾聡雄にとって、本当に手に負えない人物だということだ。