寺田徹が青木岑を見かけるのは、ほとんどの場合、だぶだぶの白衣を着ているときだった。
今日の青木岑は黒い上品なドレスを着ていて、その姿に本当に心を奪われた。
青木岑の髪は肩までの長さだったが、このドレスに合わせて特別にアップにして、クリスタルのヘアピンを留めていた。
結婚式に参加するのであって花嫁の気を奪うためではないが、気品では決して負けるわけにはいかなかった。
「ご結婚おめでとうございます」青木岑はご祝儀袋を差し出した。
寺田徹はそれを受け取り、上着のポケットにしまいながら、笑顔で「ありがとう」と言った。
青木岑は頷いて、それ以上は何も言わなかった……
「今日は……とても綺麗だよ」寺田徹は実は、大學の卒業式の時よりも素敵だと思った。
しかし、大學時代の思い出については触れるのが気が引けた。あの頃はまだ物質的なものが介在せず、純粋な感情だけだった。