第245章:ご祝儀

寺田徹が青木岑を見かけるのは、ほとんどの場合、だぶだぶの白衣を着ているときだった。

今日の青木岑は黒い上品なドレスを着ていて、その姿に本当に心を奪われた。

青木岑の髪は肩までの長さだったが、このドレスに合わせて特別にアップにして、クリスタルのヘアピンを留めていた。

結婚式に参加するのであって花嫁の気を奪うためではないが、気品では決して負けるわけにはいかなかった。

「ご結婚おめでとうございます」青木岑はご祝儀袋を差し出した。

寺田徹はそれを受け取り、上着のポケットにしまいながら、笑顔で「ありがとう」と言った。

青木岑は頷いて、それ以上は何も言わなかった……

「今日は……とても綺麗だよ」寺田徹は実は、大學の卒業式の時よりも素敵だと思った。

しかし、大學時代の思い出については触れるのが気が引けた。あの頃はまだ物質的なものが介在せず、純粋な感情だけだった。

青木岑が何か言おうとした時、吉田秋雪が二人の付添人に支えられて出てきた。

遠くから「徹」と呼びかけた。

「すみません、ちょっと行ってきます。席を探して座っていてください」寺田徹は小走りで吉田秋雪の方へ向かった。

青木岑は入口の方へ向かった。式を見たり食事をしたりする気分ではなかった。嫉妬でもなく、未練があるわけでもない。

ただ、親しい友人でもないのに、なぜ時間を無駄にする必要があるのかと思っただけだ。

出口で、ちょうどホテルの入口で吉田院長と男性秘書に出会った。

「青木岑」吉田院長が先に挨拶した。

「吉田院長」青木岑は頷いた。

「南区での生活には慣れましたか?評判がとても良いと聞いています」

「はい、慣れました。南区の上司方にも良くしていただいています」

「それは良かった。時間があれば視察に行きますので、その時は個別に話をさせていただきます」

「はい」

吉田院長と別れた後、青木岑はホテルを出て、深く息を吐いてから西尾聡雄に電話をかけた。

「寺田徹の結婚式会場から今出てきたところ」

「うん」

「彼今日は田舎者みたいな格好で、私たちの西尾様とは全然比べものにならないわ」

青木岑が珍しくお世辞を言い始めた……ことわざにもあるように、お世辞は決して無駄にならない。

西尾聡雄もそれを喜んで受け取った……

満足げに口角を上げながら、「私と比べられる人間はそうそういないからな」