第307章:この女があまりにもわがまま(14)

多田広は振り返って熊谷玲子を見つめ、彼女の意見を求めようとしたが、玲子は即座に拒否した。「絶対に無理よ。そんなことはできないし、そんなゲームには付き合えないわ。」

多田広は空笑いを浮かべながら、長田輝明を見て答えた。「彼女は器が小さくて、貧乏育ちだから、そんな遊びはできないんです。見識が狭いもので。長田さん、どうか気にしないでください。」

正直なところ、この言葉は玲子をひどく不快にさせたが、彼女は何も言わなかった。

多田広が長田輝明に対して面子を保たせようとしているのだと思い込んで…

そのとき、長田輝明は諦めきれずにグラスを持って近づいてきた。「そう?でも今日は俺が主役だからな。脱ぐのが嫌なら、せめて一杯くらいは飲めるだろう?」

多田広は玲子を見つめ、懇願するような目で言った。「玲子、一杯だけ飲んでくれよ。」

玲子は、この一杯を飲めば済むだろうし、多田広もここにいるから大丈夫だろうと考えた。

そこで何の警戒心もなく長田輝明のグラスを受け取り、一気に飲み干した…

長田輝明の口元に浮かぶ不気味な笑みに全く気付かないまま…

少し離れたところでは、桑原勝が関口遥とおしゃべりを楽しんでおり、この個室で起きていることには全く関心を示していなかった。

お酒を飲んだ後、玲子はめまいを感じ、心臓の鼓動が速くなり、様子がおかしいと気付いて、すぐにトイレに駆け込んで必死に指を喉に入れて吐き出そうとした。

そのとき、ある女性がトイレに入ってきて化粧直しを始めた。彼女は笑いながら言った。「長田さんのお酒には何か入ってたのよ。あなたの彼氏は明らかにあなたを長田輝明さんに差し出すつもりよ。観念した方がいいわ。逃げられるわけないもの。」

玲子は声を聞いて顔を上げると、その女性が青木婉子だと分かった…

彼女はずっと青木婉子のことを知っていたし、青木婉子も彼女のことを知っていた。青木岑との関係で、玲子は青木婉子が嫌いだった。

「なんでここにいるの?」青木婉子を見かけて意外だった。

おそらく桑原勝に気を取られていたせいで、玲子は個室にいる女性の中に青木婉子がいることに気付いていなかった。それも無理はない、青木婉子は今夜スモーキーメイクをしていて、両目はまるでパンダのよう。人を驚かせるほどだった。