第343章:無茶しなければ死なない(5)

青木岑が振り返ると、なんと佐藤然が熊谷玲子と一緒に来ていた。

これは珍しいことだ……

「二人でどうして一緒に来たの?もしかして復縁?」青木岑は冗談めかして言った。

「復縁なんてありえないでしょ。そもそも私たち付き合ってもいなかったんだから。それに……今日はもっと重い気持ちでいるべきじゃないの?なんであなたの顔には全然心配の色が見えないの」佐藤然が尋ねた。

「来るべきものは受け入れなきゃいけないでしょう。私が泣こうが笑おうが、結果は変わらないわ。起こるべきことは必ず起こる。私の気分が悪いからって起こらなくなるわけじゃないでしょう?」

「まあまあ、いつも理屈っぽいことばかり言って。西尾聡雄があなたを宝物扱いするのも分かるわ。まるで哲学者みたいね」

「いい加減にしなさいよ。本題に入りましょう」熊谷玲子は佐藤然を押しながら言った。

熊谷玲子は本来佐藤然のような奴を頼るつもりはなかったが、彼がいないと中に入れないことに気付いた。

今回の傍聴人数は極めて少なく、県高等裁判所も特に厳しく管理していた。

熊谷玲子は今日が開廷日だと知っていて、昨夜は青木岑を長い時間慰め、今朝も早くから傍聴の準備をしていた。

「これから緊張しないで。言うべきことをはっきり言って、興奮しないように。裁判官の印象を悪くしちゃうから。終始優雅さを保って、とにかく……大丈夫よ」

佐藤然は西尾聡雄のことをよく知っていた。妻を命より大切にする彼は、青木岑に少しでも問題が起きることは許さないだろう。

傍聴に来たのも、青木岑を応援して、彼女の心の負担を軽くするためだった。

「あれ?西尾聡雄は?」あたりを見回しても西尾聡雄の姿が見えず、熊谷玲子は不思議そうに尋ねた。

「彼は来てないわ。仕事に行ったの」

「え?仕事?奥さんが訴えられてるのに、まだ仕事する気になれるの?大丈夫なの?」

西尾聡雄が来ていないと聞いて、熊谷玲子は爆発し、怒って飛び跳ねた。

「落ち着いて。私が来るなって言ったの。西尾聡雄は立場が特殊すぎるから、来たら注目を集めすぎる。長田家がそれを話題にして、何か世論を煽り立てたら良くないでしょう」