「そうね。でも彼は結婚相手でしかないわ。婚約前はもちろん、婚約後も、結婚後でさえ、浮気をしても気にしないわ。だって私たち二人には愛情なんて存在しないもの。結婚は互いの利害関係による取引にすぎないの。こう言えばわかるかしら。渡辺健治が私と結婚したいのは、中島家の家柄が良くて、私に恋愛歴がないから。妻として相応しいって言えば聞こえがいいでしょう...そして私が彼と結婚したいのは、若くてお金持ちで、見た目も悪くなくて、教養があって頭も良くて、ちょうどいいから。私たちの年齢になったら、もう恋愛なんて言えないわ。だって恋愛って時々幽霊みたいなもの。聞いたことがある人は多いけど、見たことがある人は少ないから」
「こんなに悲観的な人だったんだね...」関口遥は思いもよらなかった。小さな虎歯を持つ中島美玖が。