やはり、この老人は毎回話すときに目的があるのだな……
「すでに言ったように、後で双方の秘書に時間を調整してもらいましょう」
「桑原勝のことですが……婉子を助けてあげられないのですか……神谷伯母は見返りとして東部エコパークの別荘をあなたに譲渡すると言っています……紹介するだけでいいんです……他は何も必要ありません」
「申し訳ありませんが、青木さん、私は桑原勝とそれほど親しくありませんし……あなたの別荘をいただけるような立場でもありません。本当に……貴重すぎます」
言い終わると、青木岑はバッグをアウディR8の助手席に置き、車に乗り込んだ……
別荘をくれる?ふん、今の彼女に必要ないものだ
「看護師長、申し訳ありませんが、週末にお手数をおかけしますが、戻ってきていただけますか?」
「どうしたの?」南区の看護師さんからの電話に、青木岑は応えた。
「大勢のファンとメディアが病院を取り囲んでいます。誰かが坂口晴人が当院で治療を受けているという噂を流したようです。うつ病だとか言われていて、今は混乱状態です。吉田院長はアメリカにいて戻れず、こちらには責任者もいません。内田部長があなたに連絡するように言いました」
「待っていて、すぐに行きます」
青木岑はアクセルを踏み込み、南区に向かって猛スピードで走り出した……
坂口晴人のカルテが漏れた?一体誰が漏らしたの?知っている人はそんなに多くないはずなのに?
青木岑が南区に到着したとき、確かに混乱状態だった……
普段冷静な彼女でさえ、目の前の状況に驚いた……
大勢のファンが病院の入り口を取り囲んでいた……
様々なメディアも来ており、警察も治安維持のために出動していたが、状況は膠着状態のようだった。
「佐藤然……どういう状況?」青木岑は久しぶりに佐藤然を見かけた。
彼が中心となって秩序を維持しているのを見て、前に出て尋ねた……
「ああ……もう言うな。誰かが坂口晴人がここで治療を受けているという情報を漏らしたらしい……そこからすべてが混乱し始めた……俺は朝から飯も食ってない。ずっとここで秩序維持してるんだ。帰れと言っても誰も聞かない……このファンたちは本当に手に負えない……」佐藤然は不満をぶちまけた。
本来これは分署の問題なのに……