「後悔なんてない」西尾聡雄はたった四文字で言い切った。
一瞬、青木岑は涙が溢れそうになった……
西尾聡雄の言葉はとても力強く、そして執着的で……
たとえ青木岑に全ての幸せを賭けて、最後に負けたとしても、後悔はないと。
青木岑は眠くてたまらないはずなのに、西尾聡雄のその言葉に感動して……
彼女は黒糖湯を置いて、立ち上がって両手で西尾聡雄の首に抱きついた。
強く抱きしめて、離したくなかった……
「お前、いい子だな……まずは熱いうちに黒糖湯を飲んで」
「いや、もう少し抱かせて」青木岑はわがままを言った。
結局数分間抱き合って、青木岑はようやく名残惜しそうに手を離した。
そして西尾聡雄の見守る中、静かに愛情たっぷりの黒糖湯を飲み干した。
二人はベッドに横たわり、青木岑は西尾聡雄の腕を枕にして……
「ねぇ……三十周年記念に、私が出し物をした方がいい?」
「出し物がしたいの?」
「歌を歌えるわよ」
「お前、おとなしくしていよう……」西尾聡雄は思わず笑ってしまった。彼女に歌を歌わせるなんて?音程が南シナ海まで飛んでいってしまうだろう。
「本気よ、音程外れない歌なら歌えるわ。あなたの顔に泥を塗ったりしないわ」
「キラキラ星でも歌うの?」西尾聡雄が聞き返した。
青木岑はすぐに手を上げて西尾聡雄の胸を叩いた……
「私のことバカにしてるの?」
「冗談だよ……俺たちは歌手じゃない。俺たちは稼ぎ手として、お前は美しい妻としてそれでいいんだ」
「ふん……もう知らない」
青木岑は記念式典で歌を歌おうと考えていた……
でも、春節晩会のような舞台で、歌手たちが集まっているのに。
妻が舞台で歌を歌ったら、おそらく……会場が凍りつくだろう……
「ねぇ?」
青木岑は無視した。
「岑?」
「青木美人様?」
西尾聡雄がどう呼びかけても、青木岑は背を向けたまま、応答しなかった。
「青木先生?」
「まだ医師じゃないわ、試験に合格してないもの」ようやく、医師という言葉に青木岑は反応した。
西尾聡雄は愛おしそうに彼女の体を向き直させた……
「もう怒るなよ。歌いたければ歌えばいい、踊りたければ踊ればいい、何をしたいかはお前次第だ」
「本当?」
「本当さ……」西尾聡雄は妻を守るためなら何でもする覚悟だった。