「奥さん、仕事終わった?」
「まだよ、残業中で、あと30分くらいかかりそう」
「わかった、迎えに行くよ」
「うん、じゃあまた」
電話を切ると、青木岑は突然思い出したことがあり、すぐに永田補佐に電話をかけた。
「奥様、なんでしょうか」永田はすぐにお世辞を言った。
「30周年記念式典には、全支社の人が来るの?」
「はい、奥様」
「そう、T市支社の人たちの参加をキャンセルして。全員来させないで」
「えっと...」
「あそこの事故処理がまだ終わってないし、悪評も続いてるから、式典に影響が出るのが心配なの。この件は西尾社長に直接話すわ。私の指示通りにやってくれればいいわ」
「承知いたしました、奥様」
永田は電話を切り、指示通りにT市支社に電話をかけた。
「笹井社長、永田です」
「永田さん、どうぞ...」笹井春奈は高級ブティックでドレスを試着中だった。
会社の30周年記念式典で、全員の目を引こうと準備していた...
「あの...実は今連絡を受けたんですが、担当されている地域での悪評が収まっていないため、今回の30周年記念式典への出席を見送らせていただくことになりました」
「何ですって?」
笹井春奈は一瞬で心が凍りついた...
「申し訳ありません。もっと早くお伝えすべきでしたが、私も今しがた連絡を受けたばかりで...ですので、笹井社長にはご不便をおかけしますが、他の社員の方々にもご理解いただき、年末の社員総会でお会いしましょう」
「なぜ私たちの出席を認めないんですか?」
「事故の件がまだ悪評の対象となっているため、会社としてリスクを避けたいということです」
「これは誰の意向なんですか?西尾社長ですか?」笹井春奈は胸が締め付けられるような思いだった。
こちらに来てから仕事のプレッシャーも大きく、毎日問題の後始末に追われ、さらに様々な方面からの批判や非難にも直面していた。
彼女は負けず嫌いで、西尾社長の注目を集めるため、常に成果を出そうと頑張っていた...
今回の30周年記念式典では、少しリラックスして、久しぶりに西尾社長に会えると思っていた。
しかし...その資格さえも剥奪されてしまった...
「西尾社長のご意向です」永田は、奥様の意向イコール社長の意向だと考えた。
「信じられません。直接西尾社長に確認します」