「行くさ、絶対に行くよ」桑原勝は何気なく笑った。
「本当に懲りないね」
「別に...必ず行くんだ。行くだけじゃなく、みんなに私のことを覚えてもらいたいんだ」
「えっ...まさか、ステージで告白するつもりじゃないよね?そんなことしないでよ、青木岑が困るわ」
「もちろんそんなことはしないよ。彼女に迷惑をかけたくないし、噂されるのも嫌だからね」
そう言って、桑原勝は立ち上がった。「じゃあ、二人でラブラブしてな。俺は矢野川のところに飲みに行くよ」
南区療養院
西尾聡雄は時間通りに青木岑を迎えに来た。彼女は服を着替えて、バッグを持って出てきた。
マイバッハが玄関前に停まっているのが見えた...
「時間通りね」青木岑は微笑んだ。
「どこで食事する?それとも家で作る?」西尾聡雄は優しく尋ねた。
「実家に行きましょう。母さんから電話があって、幸治が帰ってきたから、私たちも来るように言われたの。たくさん料理を作ったって」
「いいよ」
西尾聡雄は頷いて、実家に向かって車を走らせた。
途中で、彼は笑いながら聞いた。「ん?なんだろう、この酸っぱい匂いは?」
青木岑は意味が分からず、クンクンと嗅いでから困惑した表情で「ないわよ?本当に匂うの?」
「うん、すごく酸っぱい匂いがする...誰かの酢の壺が倒れたのかな」
「西尾様...言外の意味があるわね」最初は本気だと思っていたが、この言葉を聞いて、青木岑は騙されたことに気付いた。
「西尾奥さんは凄いね...ライバルが現れる前に、芽のうちに摘んでしまうなんて」
「西尾様の言っているのは...?」
「T市のことだよ」
「ああ、それについて話そうと思っていたところよ。あっちで事故が起きてまだ間もないから、彼らが来たらメディアが変な記事を書きかねないわ。会社にも影響があるし、今はまだ後始末の時期だから、控えめにした方がいいと思って」
「その通りだね」西尾聡雄は微笑んだ。
「本当に?」
「嘘だとは言ってないでしょう...」西尾聡雄は思わず笑った。
「もう...いいわ、はっきり言うわ...私、笹井春奈が嫌いなの...来て欲しくないの」
「分かったよ、全て君の命令通りにするよ」
西尾聡雄は青木岑のやり方に同意しているようだった...
「私のわがままだと思わない?」