第290章:桑原様、紅顔に怒りを発す(10)

「奥さん、今夜細川市長が帰国して私的なパーティーを開くんだけど、一緒に来ない?」

正直に言うと、西尾聡雄から誘われて、彼女の心も嬉しかった……

「いいわよ、仕事が終わったら会いに行くわ」

「うん、ドレスは用意させておくから、早めに来てね」

「わかった」

電話を切ると、突然後ろから名前を呼ばれた。

「青木先生」

「何かありましたか?」小西順子が息を切らして走ってくるのを見て、青木岑は少し不思議に思った。

「先ほどあなたの事務室に行ったら、整形外科にいないと言われて」

「ええ、これからは神経内科にいますから、用事があればこちらに来てください」

小西順子は頷き、持っていた黒いビニール袋を青木岑に渡した。

「青木先生、これをどうぞ」

「何ですか?」

「大したものじゃないんです。私が作ったものなんですけど、気持ちだけ」