「奥さん、今夜細川市長が帰国して私的なパーティーを開くんだけど、一緒に来ない?」
正直に言うと、西尾聡雄から誘われて、彼女の心も嬉しかった……
「いいわよ、仕事が終わったら会いに行くわ」
「うん、ドレスは用意させておくから、早めに来てね」
「わかった」
電話を切ると、突然後ろから名前を呼ばれた。
「青木先生」
「何かありましたか?」小西順子が息を切らして走ってくるのを見て、青木岑は少し不思議に思った。
「先ほどあなたの事務室に行ったら、整形外科にいないと言われて」
「ええ、これからは神経内科にいますから、用事があればこちらに来てください」
小西順子は頷き、持っていた黒いビニール袋を青木岑に渡した。
「青木先生、これをどうぞ」
「何ですか?」
「大したものじゃないんです。私が作ったものなんですけど、気持ちだけ」
そう言うと、小西順子は青木岑の手にそれを押し付けて、すぐに立ち去った……
しばらく付き合ってみると、小西順子という人は粗野に見えて、時々悪態をつく。
おしゃべりな主婦のような外見だが、実は繊細な心の持ち主だった。
彼女は、自分と息子の病院での費用を全て青木岑が出してくれていることを知っていて、心に負い目を感じていた。
それは偶然、神経内科の阿部部長から聞いたことで、この数日間昼夜を問わず作業を続けていた。
手には血豆がいくつもできたが、それでも完成させた……
青木岑は興味深く神経内科の事務室に戻り、袋の中身を取り出した。
その瞬間、少し驚いた……
深まる秋で、もうすぐ冬になるため、気温が下がってきていた。
多くの人がマフラーや手袋などを身につけ始めていた。
青木岑は卒業してから、そういったものをほとんど身につけたことがなく、幼稚だと思っていた。
小西順子が彼女にプレゼントしたのは、クリーム色の防寒セットだった。
長いマフラーと、ふわふわの手袋、そしてかわいい小さな帽子があった。
全て同じ色で、編み方が独特だったが、一目で手作りだとわかった。
細部の処理が完璧ではない部分もあったが……
でも本当に綺麗だった……
彼女が毛糸を買って、一針一針編んだのだろう。
青木岑はそれを手に取り、心が温かくなった……
帽子をかぶってみると、暖かくて、可愛らしかった……