銀灰色の車が一瞬門の前を通り過ぎ、道の果てへと向かっていった。
水野日幸はため息をつき、寂しげに両腕を抱きしめた。彼ではなかった。
深夜零時、もう帰ってこないと確信した彼女は、ようやく諦めて、傘に積もった厚い雪を払い落としながら、梯子を降りた。
'長谷川深'の雪像は傘を差し、椅子の上に置かれていた。椅子の脚は雪に埋もれそうなほどで、積雪は優に50センチはあっただろう。
水野日幸は大切な人に最初にプレゼントを見てもらいたくて、'長谷川深'を彼の家の玄関前に運び、傘をしっかりと支えた。
「お兄さん、おやすみなさい」水野日幸は'彼'に向かってにっこりと微笑んで言い、何かを思い出したように自分のマフラーを外し、丁寧に'彼'に巻いてあげた。
全てを終えた後、もう一度道路の方を見やった。
道路は真っ白な雪で覆われ、厚い積雪の上には何の痕跡もなかった。
真夜中、辺りは静まり返り、雪はもうほんの少ししか降っていなかった。よく耳を澄ませば、自分の少し荒い息遣いだけが聞こえた。
水野日幸が生まれ変わってから、初めて一人で家にいることになった。寒々しく、がらんとした家の中で、分厚い布団にくるまっても寒さを感じた。
携帯を取り出し、出雲さんと水野から送られた一連のメッセージを見つめながら、携帯を抱きしめたまま深い眠りについた。
「まあ、携帯を抱きながら寝るなんて」出雲絹代が起こしに来ると、娘が携帯を抱きしめて寝ているのが目に入った。
「ママ」水野日幸はぼんやりと目を開け、涙目になりながら母親の胸に飛び込み、わっと泣き出した。
出雲絹代は驚き、心配そうに優しく尋ねた。「どうしたの?悪い夢でも見たの?」
水野日幸は鼻をすすり、母の胸の中で激しく頷いた。
彼女は悪夢を見ていた。
曽我家での最も絶望的で苦しい日々の夢だった。顔も損なわれ、不自由な体になった彼女が暗い部屋の中で、骨と皮だけになった母が目の前に立っていた。
彼女が呼びかけても、母は応えてくれなかった。
近づこうとすると、母はどんどん遠ざかっていった。
「大丈夫よ、私たちたった一日だけ出かけただけじゃない。今度は行かないわ」出雲絹代は娘の背中をさすりながら慰めた。
彼女と水野は、週末に実家に帰る予定で、一ヶ月前に三人分の航空券を予約していた。