大雪の降る日、バスの中には人影もまばらだった。
水野日幸は顔を向け、顎を支えながら窓の外の大雪を眺めていた。
家に帰ったら、絶対に大佬に見せる雪だるまを作ろう。彼の姿を模して、雪の彫刻を作ることにしよう。
そう考えると嬉しくなって、カバンからスケッチブックとペンを取り出し、線画を描き始めた。
隣に座っていたお姉さんは、何気なく一瞥を投げかけただけだったが、彼女が数筆で描き上げた端正な容姿の美男子の絵に、思わず見とれてしまった。
なんてこと!
この可愛い子、すごい才能の持ち主じゃない!
この絵、すごく素敵!
「あの、イラストレーターさんですか?」お姉さんは、彼女がきっと凄腕の絵師さんに違いないと思った。
「いいえ」水野日幸は首を振った。
「どの芸能人を描いているんですか?」お姉さんは話好きで、こんなにも美しい男性を見るのは初めてだった。
現実でも、テレビでも、あるいは凄腕絵師たちの作品の中でも、こんなに人間離れした美しさの男性は見たことがなかった。
「違います」水野日幸は突然笑顔を見せ、楽しそうな口調で素直に答えた。「これは私の彼氏です」
「彼氏さん、本当に素敵な方ですね」お姉さんは親切に褒め、彼女をもう一度見つめて、真剣に言った。「あなたも綺麗ですよ。お幸せに」
ああ、こんな神仙のような美男美女カップルが、現実に存在するなんて!!
うう、嫉妬しちゃう、どうしよう?
いやいや、神仙同士が結ばれるのは当然よね、嫉妬しちゃダメ!
「ありがとう」水野日幸は何かを感じたかのように、突然窓の外を見た。
同じ車線に、グレーのマイバッハが走っていた。
マイバッハはスピードが速く、すれ違う瞬間、彼女は氷の彫刻のように精緻で冷たい美しい横顔をはっきりと見た。
窓を開けて、その車に向かって叫んだ。「お兄さん!」
風は強く、雪も激しかった。
車は一瞬のうちに、目の前から消えてしまった。
古いバスは、冬は暖房がなく、夏はエアコンもなく、窓は自由に開け閉めできた。
「すみません」水野日幸は窓を閉め、隣に座るお姉さんに謝った。
幸い、バスの後部には彼女と隣の女の子の二人しかいなかった。そうでなければ、窓を開けて冷たい空気が入ってきて、気性の荒い人がいたら、すぐに罵声を浴びせられていただろう。
「大丈夫です」お姉さんは優しく微笑んだ。