「誰もいないわ。風が強くて、ドアが開いただけよ」水野日幸は答えると、高橋夢を警告するような目つきで睨みつけ、一橋渓吾の方を見た時には、目つきが少し柔らかくなり、声を落として言った。「彼女を連れて行って」
高橋夢も水野若社長の態度が普段と違うことに気づいた。その目つきは人を食いそうで、これ以上粘ると命がないと思い、すぐに逃げ出そうとした。
「日幸の友達なの?」出雲絹代は既にドアのところまで来ていて、優しい笑顔で彼らを見つめていた。
高橋夢は振り向いて、礼儀正しく挨拶をした。「水野奥様、こんにちは。コスモスエンタテインメントの所属タレントの高橋夢と申します。水野社長にちょっとご用があって参りました」
水野若社長は表情は冷たいけれど、心は温かいのだ。彼らに対してとても良くしてくれる。彼らを追い払おうとしたのは、水野奥様に会わせたくなかっただけなのだ。