水野日幸は彼を蹴り倒したい衝動に駆られたが、思い直して我慢し、彼を押して行き、トマトを自分の手で摘む楽しみを体験させることにした。
菜園は小さく、十数個の小さなトマトが実っていた。支柱を立てて高く這わせており、トマトは房になって赤々と可愛らしく実っていた。
藤田清明は手を伸ばしてトマトを摘もうとし、長い間考え、葛藤した末にようやく口を開いた。声は言いようのない低さだった。「君は本当に彼のことが好きなの?」
水野日幸はわざと知らないふりをして「誰のことを言ってるの?」
藤田清明は怒る様子もなく、とても落ち着いていた。「隣のおじさんのことだよ」
水野日幸は彼が誤解していることを知っていた。若い坊ちゃまが彼女の顔をまともに見ることもできず、トマトを潰してしまいそうなほど強く握っているのを見て、わざとからかった。「それは、どんな好きなのかによるわね」
藤田清明の体が突然硬くなり、長い間葛藤した後、ついに諦めたかのように苦しそうな声で言った。「君が好きならそれでいい」
おじさんでも、障害があっても、何でもいい。彼女が好きなら、彼は邪魔をしない。彼女の好きなことを止める資格も持っていなかった。
水野日幸は初めてこんなに真剣な、こんなに深刻な藤田清明を見た。まるで彼が非常に困難な決断を必死に下そうとしているかのようだった。
彼女はそれを見て複雑な気持ちになり、特に「君が好きならそれでいい」という言葉を聞いて、胸が温かくなり、鼻が少しつんとした。彼の隣にしゃがみ込んで、トマトを一つ摘んで口に入れながら「藤田清明」と呼んだ。
藤田清明は振り向いて、彼女を見つめた。
「本当のことを話すわ。でも、お父さんとお母さんには言わないでね」水野日幸は真面目な表情で彼を見つめた。
藤田清明は表情を引き締め、力強くうなずいて、息を止めて彼女の次の言葉を待った。いたずらっ子は叔父さんと叔母さんに秘密を守ってほしいんだろう、と彼は分かっていた。
水野日幸はため息をつき、少し間を置いて、緊張して彼女を見つめる藤田清明をじっと見て、やっとゆっくりと口を開いた。「私が彼に対して抱いている好意は、年下の者が年上の人に対する尊敬と好意なの」