第643章 命を賭けて戦うしかない

外は、雪が舞っていた。

出雲絹代は居間の入り口に立ち、長谷川深が出て行くのを見送ってから振り返ると、深刻な表情をした水野春智の姿が目に入った。彼女は不思議そうに近寄って尋ねた。「あなた、長谷川のことをどう思う?」

水野春智は彼女の声を聞いて我に返り、外を一瞥してから深いため息をつき、一言一言はっきりと言った。「あれは長谷川深だ!」

出雲絹代は困惑した表情で彼を見つめ、続きを待った。

水野春智は言葉を選ぶように、どう説明すべきか考えながら、しばらくしてから言った。「妻よ、彼が誰か知っているか?」

出雲絹代は彼と結婚して長年経つが、会社の経営が上手くいかず、資金繰りが破綻し、倒産寸前の時でさえ見せなかったような、こんなに深刻で心配そうな表情を初めて見た。彼の手を握りながら尋ねた。「彼は誰なの?」

水野春智は再び溜息をつき、心配以外の何物でもない気持ちで言った。「長谷川深は長谷川家の當主だ。今の日本で最も有力な名門だ。」

あの子は確かに良い人柄で、礼儀正しく分別もある。認めたくはないが、認めざるを得ない。うちの娘と釣り合わないわけではない。

しかし彼は長谷川家の當主だ。若くして、今もまだ25歳。18歳の時に没落していた長谷川家を今の地位にまで押し上げた。権力と富の頂点に立つ大物で、その手腕は容赦なく鋭い。帝都の人々は彼のことを生き閻魔と呼んでいる。

娘が彼と一緒になって、彼を制御できないのではないか、もし万が一虐げられたらどうしようと心配だった。勢力も財力も彼とは比べものにならない。もし娘が虐げられたら、命を賭けて戦うしかないだろう。

「あなた、私は誰であろうと、日幸が好きで、彼も本当に日幸のことを好きなら、それでいいと思うわ。」出雲絹代は真剣な眼差しで彼を見つめた。娘の気持ちは分かっていた。今でも娘が塀の上に立ち、目を輝かせていた姿を鮮明に覚えている。それは最も美しく甘い、恋を見つけた表情だった。「将来のことは、誰にも確実なことは言えないわ。」

「分かっている。」水野春智は溜息交じりに言った。「あの子は確かに良い。」

もちろん分かっていた。今時の若者の言葉で言えば、容姿も才能も財力もあり、権力も頂点にいるゴールデンバチェラーだ。こんなに若くして成功を収め、どんな女の子だって彼に大切にされたら、好きにならないはずがない。