第689章 藤田家の人は狂った

大物の水野日幸は、無奈気な表情で石田文乃の泣き声を聞き終わってから、やっと口を開いた。「今日、年越しステージの収録があるんじゃなかった?このまま泣き続けたら、収録できるの?」

彼女は石田文乃が泣くのを初めて聞いた。しかも自分のために泣いているのだ。言葉も出ないほど泣いていて、心が感動した。

「もう泣かない。私たちはトリで出演だから、まだ何時間もあるし、その時には腫れも引いているはず」石田文乃は涙を拭いながら、まだすすり泣きをしていた。先ほどのことを思い出して恥ずかしくなり、咳払いをして「じゃあ切るね。撮影が終わったら家に帰って会いに行くから。今は藤田家には行かないよね」

「行かないよ。家にいるから」水野日幸は言い終わると、さらに一言付け加えた。「お兄さんと一緒に帰るの?」

石田文乃は鼻をすすり、泣いた後で気持ちが落ち着いていた。「一人で帰るわ。お兄さんのことは聞いてないから」

水野日幸は、お兄さんもきっと帰ってくるはずだと思った。こんな大きな出来事があったのだから、誰だって帰らずにはいられない。水野さんはまだトレンド入りを見ていないはずだ。彼は芸能ニュースに関心がないから。そうでなければ、とっくに電話がかかってきているはずだ。

彼女が電話を切る前に、寮の部屋のドアをノックする音が聞こえた。

大方笑子は警戒して玄関に走り、「誰?」と尋ねた。

「水野日幸の兄です」ドアの外の人が答えた。

大方笑子は声を聞き分けた。光輝兄の声ではないが、やはり良い声だった。水野日幸を見て、確認を取った。

水野日幸はその声を聞き分けていた。うなずいてドアを開けるように合図すると、そこには源那津が立っていた。

源那津の容姿は藤田清輝に比べるとやや劣るものの、この容姿は一般人はおろか、芸能界でも人を圧倒する存在だった。

江川薫と大方笑子は目を輝かせた。またイケメンだ。二人は推測した。もしかして、おそらく、藤田清輝の兄の藤田清義かもしれない。容姿は光輝兄よりもわずかに劣るが、それでもかなりのイケメンだった。

「お兄さん、私の部屋に行きましょう!」水野日幸は彼に笑顔を向けた。

源那津はうなずいた。数日前に彼女が曽我家の娘ではないと聞いていたが、まさか藤田家の娘だとは夢にも思わなかった。本当に驚きだった。