第89章 私はあなたの目に何なの?(5)

来栖季雄は一見テレビを落ち着いて見ているように見えたが、実際には常に隣にいる鈴木和香に注意を向けていた。彼は女性の緊張と不安をはっきりと感じ取ることができた。最初は手にコップを持っているときはまだ良かったが、水を飲み終わると、まるで経穴を押さえられたかのように全く動かなくなり、呼吸さえも慎重に細めていた。

来栖季雄の心の中に深い挫折感が浮かび上がった。彼はテレビを見つめる目が一瞬ぼんやりとし、それから立ち上がり、感情を全く感じさせない声で一言:「コピーができているか見てくる」と言った。

そして歩いて出て行った。

来栖季雄が去ると、まるで体の上に乗っていた大きな山が取り除かれたかのように、鈴木和香はようやく普通に呼吸ができるようになった。彼女は手を上げて自分の胸を軽く叩き、何度も深く息を吸い、それから全身の力が抜けてソファに寄りかかり、テレビを見つめた。

テレビの司会者がちょうど冗談を言い、鈴木和香は大声で笑うことはできなかったが、それでも思わず口角が緩んだ。

来栖季雄は寝室の書斎机に座り、リビングにいる鈴木和香の一挙手一投足を全て目に収めていた。彼は一瞬ぼうっとしたが、すぐにいつもの冷静さを取り戻し、彼女から視線を外し、まだ作動中のコピー機を見つめた。

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鈴木和香は来栖季雄がまた出てくることを恐れ、気まずさを避けるために、目を閉じて眠りを装うことにした。

部屋の中は静かで、コピー機のシャーシャーという音以外には何も聞こえなかった。

鈴木和香は目を閉じ、最初は頭の中でいろいろなことを考えていたが、ほら、徐々にぼんやりと眠りに落ちていった。

台本のコピーが終わり、来栖季雄は鈴木和香の台本を再び綴じ直して持って出てきたが、女の子がソファに斜めに寄りかかって既に眠り込んでいるのを見た。

来栖季雄は無意識に足を止めた。彼はその場に少し立ち止まってから、寝室に戻り、薄い毛布を持って出てきて、ソファまで歩いていき、そっと鈴木和香の体にかけた。

鈴木和香は深く眠っており、全く気付かなかった。