降り止んだばかりの大雨で、地面には水たまりができていた。来栖季雄の車が猛スピードで走り去り、地面の水たまりを跳ね上げ、その水滴が鈴木和香の露出した腕に数滴落ちた。
来栖季雄の車が去ると、桜花苑別荘の通りは一瞬にして静まり返り、鈴木和香一人だけが残された。
通りの両側の街灯が、淡い光を放ち、鈴木和香の痩せた体に降り注ぎ、少し心細げで寂しそうに見えた。
鈴木和香はしばらくその場に立ち尽くし、ようやく涙が止まると、バッグを開けて中からウェットティッシュを取り出し、顔を拭いてから別荘の中へと歩いていった。
鈴木和香が鍵を取り出してドアを開け、玄関で靴を脱いでいると、千代田おばさんが自分の部屋から出てきた。事前に連絡なく帰ってきた鈴木和香を見ても、少しも驚いた様子はなく、「奥様、お夕食の用意ができておりますが、お召し上がりになりますか?」
鈴木和香は泣いたばかりで気分が落ち込んでおり、千代田おばさんがどうして自分が今夜帰ってくることを知っていたのか気付かず、ただ首を振って小さな声で言った。「結構です。外で食べてきましたので。」
少し間を置いて、千代田おばさんに付け加えた。「少し疲れているので、先に上がります。」
「では奥様のお風呂の準備をさせていただきます。温かいお風呂で疲れを癒していただけますように。」
千代田おばさんがそう言って階段を上がろうとすると、鈴木和香は軽く微笑んで断った。「大丈夫です。私自身でやりますので、早めにお休みください。」
「では、奥様、おやすみなさいませ。」
「おやすみなさい。」鈴木和香は千代田おばさんにもう一度微笑みかけ、階段を上がった。
寝室に戻ると、鈴木和香はバッグをソファに適当に投げ、温かいお風呂に入って、乾いたパジャマに着替えて出てきたが、少しも眠気は感じなかった。そこで桜花苑に引っ越してきた時のスーツケースをウォークインクローゼットから引っ張り出し、暗証番号を入力して開け、中から小さな贈り物の箱を取り出し、クローゼットのカーペットの上に座って箱を開けた。
中身は雑然としていて、ペアの航空券や電車の切符、そして赤い百元札が数枚挟まっていた。
鈴木和香はしばらくそれらのものを見つめた後、手を伸ばして中を探ると、空色の封筒が姿を現した。
鈴木和香は指でその封筒を軽くなぞってから、封筒を手に取った。