第142章 君も雨の日が好き?(6)

来栖季雄はここまで話すと、何か昔のことを思い出すかのように、少し黙り込んでから、また穏やかな声で続けた。「ほら、ある出来事がきっかけで、雨の日が好きになったんだ」

鈴木和香の心臓が一瞬止まりそうになった。彼が雨の日を好きになったのも、自分と同じように理由があったのだ……ただ、彼女は一人の人のせいで、彼はある出来事のせいで……

結婚してから初めて来栖季雄がこんなに穏やかに話してくれたせいか、少し大胆になって、心の中の疑問を思わず口にしてしまった。「どんな出来事で雨の日が好きになったんですか?」

来栖季雄は窓の外の大雨を見つめながら、一瞬悲しげな眼差しを見せた。「あの出来事で、僕の人生で一番大切な人と初めて近くで接することができたんだ……」

来栖季雄はここまで話して、突然自分が何を言ってしまったのかに気づき、急に言葉を止めた。

鈴木和香は傍らに立ち、全神経を集中して来栖季雄の次の言葉を待っていたが、しばらく待っても来栖季雄が口を開かないので、不思議に思って顔を向けた。

来栖季雄は目の前のガラス窓を通して、少女が期待に満ちた表情で自分を見つめているのを見た。

五年前のあの出来事で、彼は彼女を追いかける資格も、彼女を手に入れる資格も失ってしまった。たとえ恋しくても、一人で心の中で密かに愛するしかなかった。なのに、今さっき不注意で、自分の心の内を漏らしそうになってしまった。

来栖季雄は喉仏を軽く動かし、理性で感情を押し殺すように、淡々と言った。「いや、別に大したことじゃない」

「そう」鈴木和香は静かに応え、もう何も言わず、窓の外の大雨を見つめながら、遠くに思いを馳せた。

来栖季雄は、雨の日に彼の人生で最も大切な人と出会ったと言った。それは彼が好きな女の子のことだろうか?

彼も彼女も同じように雨の日に、人生で最も愛する人に出会ったのだ。ただし、彼女の最愛は彼で、彼の最愛は他人だった。

さっきまで彼と同じ趣味があることに心躍らせていた気持ちは、今は淡い悲しみと苦みで満ちていた。

その後、二人とも互いに一言も交わすことなく、ただ窓の前に立って外の大雨を眺めながら、それぞれの思いに耽っていた。

彼は、彼女を愛していた。

彼女は、彼を愛していた。