二人は約十秒ほど見つめ合い、監督が満足げに声を上げた。「はい、いいですね。次のシーンの準備を。」
来栖季雄は監督が最初の一言を発した瞬間、素早く鈴木和香の手首を離し、二歩後ずさりしてから、身を翻して足早に立ち去った。
「来栖社長……」助手は来栖季雄が撮影を終えたのを見て、すぐにペットボトルを持って駆け寄ったが、来栖季雄は助手を完全に無視し、ただ大股で自分の専用車まで歩き、ドアを開けて乗り込んだ。
助手は慌てて車に乗り込んだが、そこで来栖季雄の顔色が少し青ざめているのに気付いた。助手は眉をひそめ、来栖季雄の体調を尋ねようとした矢先、撮影で着ていた薄青のシャツの背中に鮮やかな赤い染みが一、二滴あるのを見つけた。助手は目を見開いて叫んだ。「来栖社長、背中から血が!」