「昨夜は雫姉のおかげよ。私があなたを見つけられなかった時、状況を彼女に伝えたら、最初に異変に気付いて、防犯カメラを調べて、あなたが林夏音に連れて行かれたのを見つけたの。その時、あなたはもう薬が効いていて、意識が朦朧として、抵抗する力もなかったわ」
馬場萌子の説明に従って、鈴木和香の脳裏にぼんやりとした断片的な映像が浮かんできたが、それらは余りにも断片的で、繋ぎ合わせることができなかった。
「私はその映像を見た時、本当に怖くなって、夏美姉に電話して助けを求めようとしたの。でも雫姉が私の携帯を取り上げて、来栖スターに電話をかけたわ」
来栖季雄?鈴木和香の目に疑問の色が浮かんだ。
「その後、雫姉のアシスタントの一人が、林夏音の車が撮影所のホテルの下にあるのを見つけて、雫姉に電話したの。雫姉はそれを来栖スターに伝えて、その後のことは私は直接見ていないから、何が起こったのかわからないけど、後で雫姉から聞いたところによると、あなたは林夏音に我孫子プロデューサーの部屋に連れて行かれたそうよ...」ここまで話して、馬場萌子は何かを思い出したように付け加えた。「でも、この件は人に知られて大げさに広まると、あなたに不利になるかもしれないから、情報は既に封鎖されていて、知っている人はほとんどいないわ」
「だから、和香、もし本当に感謝するなら、一番感謝すべき人は来栖スターよ。昨夜、彼があなたを救ってくれたから何も起こらなかったの。もし彼が街から戻って来なかったら、昨夜、あなたは間違いなく我孫子プロデューサーにやられていたわ」
来栖季雄が私を救ってくれた?
鈴木和香はそこで初めて、自分の左手の甲に小さな針の跡があることに気付いた。おそらく点滴の針の跡だろう。つまり、昨夜、来栖季雄は彼女を病院に連れて行ったということ?
千代田おばさんが言っていた、今朝彼に抱かれて帰ってきたということは、昨夜、彼は病院で一晩中彼女の看病をして、今朝、彼女の容態が安定してから家に送り届けてくれたということ?
さっき馬場萌子が言っていた、今日のニュースは全て林夏音のスキャンダルを暴露する内容で、しかもほとんどのメディアが一斉に報道したということ...
鈴木和香はすぐに馬場萌子のスマートフォンを借りて、WEIBOを開いた。案の定、トレンドトピックは全て林夏音に関するものだった。