第251章 あなたは彼が誰を好きか知っていますか?(11)

オフィスは静まり返っていた。しばらくして、来栖季雄の携帯が鳴った。彼はポケットから携帯を取り出し、着信を確認すると、無意識のうちにタバコを消してから電話に出た。

鈴木和香は電話が繋がったのを聞き、心臓が小さく震えた。目を閉じて深く息を吸ってから、やっと口を開いた。「季雄さん……」

季雄の名前を呼んだ途端、和香は声を詰まらせた。

二人の関係が冷え切っていた時期を過ぎてからは、もう「来栖社長」とは呼ばなくなった。でも、まだ名前で呼べるほど親しい関係ではないことも分かっていたので、話しかける時はいつも彼への呼びかけを意識的に避けていた。さっきは馬場萌子からのLINEで頭が混乱していたせいか、つい無意識に彼の名前を呼んでしまった。

和香は携帯を握る手のひらに汗が滲んでいるのを感じた。