鈴木和香は車のドアロックが開く音を聞き、体が少し震えた。一瞬躊躇してから、ゆっくりと目を上げ、外のバックミラーを通して来栖季雄が車から降りる後ろ姿が見えた。桜花苑の家で彼のために用意したサプライズを思い出し、唇が動いたものの、結局何も声を出さなかった。
来栖季雄は車のドアの横に立ち、川辺の柳の木を見つめていた。何を考えていたのかわからないが、しばらくして手を後ろに振り、車のドアを「バン」と強く閉め、そのまま歩き去った。
車内は突然静まり返った。鈴木和香は車の座席に縮こまったまま、じっと動かなかった。しばらくして、やっと軽くまぶたを瞬かせ、顔色の青ざめた様子で体を起こし、少し乱れた服を整え、髪を適当に後ろで束ねた。車の中でしばらくぼんやりとした後、運転席に移動して車を発進させ、前方の本通りに出て、桜花苑へと向かった。
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来栖季雄はタクシーを拾い、直接環映メディアへ向かった。
来栖季雄は料金を支払い、オフィスビルに入った。警備室の警備員は居眠りをしていたが、誰かが入ってくるのを見て首を振り、来栖季雄だと気づくと、すぐに気を引き締めた。「来栖社長。」
来栖季雄は何も言わず、ただ一階のエレベーターホールへと歩いていった。
時刻はすでに夜の11時近く、ビル全体が静かだった。来栖季雄はエレベーターを降り、自分のオフィスへ向かおうとしたが、松本雫のオフィスの前を通りかかった時、ドアが半開きで、中から明るい光と小さな音が漏れているのに気づいた。
来栖季雄は眉をひそめ、足を止めて少し聞き耳を立てた。しばらくすると、松本雫の低く抑えた磁性のある声で誕生日の歌を歌っているのがかすかに聞こえてきた。
来栖季雄は少し躊躇してから、手を上げてドアをノックした。中の声は瞬時に静まり返り、約3秒後、松本雫のいつもの女王様のような落ち着いた声が聞こえた。「誰?」
来栖季雄は返事をせず、ただ少し力を入れて半開きのドアを押し開けた。
松本雫の広いオフィスには彼女一人だけがいた。ダイヤモンドの装飾が施された白いロングドレスを着て、照明の下でまぶしい光を放っていた。彼女はソファにくつろいで座り、前のテーブルには12インチの小さなケーキが置かれ、上のろうそくは既に消されていた。傍らにはラフィットワインのボトルとワイングラスが置かれていた。