鈴木和香は眉間を動かし、来栖季雄の特有の清々しい香りをかすかに感じ取った。そして耳元で、優しくも深い愛情のこもった言葉が聞こえた。「和香、好きだよ。ずっとずっと前から好きだった……」
鈴木和香は夢を見ているのかと思い、思わず唇の端が少し上がった。枕に頭をすり寄せ、すっかり眠りに落ちた。
来栖季雄は鈴木和香の寝顔をじっと長い間見つめ、手を伸ばして彼女の髪に触れてから、元の場所に横たわった。
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翌朝、鈴木和香は雷の音で目を覚ました。起き上がってベッドの反対側を見ると、来栖季雄の姿はもうなかった。窓の外では大雨が降っていた。和香が部屋を出てリビングに行くと、千代田姉が一人で木の椅子に座り、男物の上着を繕っていた。
「鈴木さん、起きましたか?」千代田姉は鈴木和香を見上げると、手の仕事を置いて、脇に行って和香のために取っておいた朝食をテーブルに運んだ。
鈴木和香は礼を言って座り、尋ねた。「みなさんはどこに?」
「山に筍を掘りに行きましたよ。」
鈴木和香は黙って頭を下げ、静かに食事を始めた。食事の途中、外でまた強い稲妻が光り、その後、耳をつんざくような雷鳴が轟いた。雨音はさらに大きくなり、和香は思わず振り向いて、開いた戸口から外の土砂降りを見た。地面には水泡が立ち始めており、心の中に不安が芽生え、食欲も失せてしまった。
鈴木和香が頻繁に戸外を見るので、千代田姉の注意を引いた。千代田姉は慰めるように言った。「鈴木さん、ご心配なく。ここはよく大雨が降るんですが、大丈夫ですよ。この雨もすぐに止みますから。」
鈴木和香は軽く頷いたが、心の中はまだ落ち着かなかった。外の世界は雨に包まれ、白く霞んでいた。東京で育った彼女には、このような悪天候はめったに経験したことがなかった。
千代田姉は、和香の緊張を和らげようとしているのか、あるいは単に一人で退屈だから誰かと話したいだけなのか、また口を開いた。「鈴木さん、お二人はどちらの出身ですか?」
鈴木和香は悪天候の外を見つめながら、やや上の空で答えた。「東京です。」
「東京ですか。大都会ですね。なるほど、お二人とも雰囲気が違うと思いました。」千代田姉は話しながら、繕い終えた服に玉止めをし、歯で糸を切った。
外でまた稲妻が光り、雷が鳴り、鈴木和香は顔を蒼白にし、不安で胸が締め付けられ、体も震えた。