鈴木和香は長い間泣いていた。やっと泣き止んで、手で顔の涙を雑に拭い、鈴木家の門を一目見たが、中には入らず、そのまま歩き出して団地の出口へ向かった。
鈴木夏美も自分がどうしてなのか分からなかったが、鈴木和香が門の前を通り過ぎる時、慌てて横に身を隠した。急いで隠れたため、枝だけ残ったバラ藤に触れてしまい、鋭い枝が彼女の手首を切り裂いた。痛みで息を飲み、思わず傷口を押さえた。そして鈴木和香の姿が門の前を通り過ぎてから、再び歩み出て、門の前に立ち、鈴木和香の後ろ姿を複雑な表情で見つめた。
「夏美?」田中大翔の声が響き、鈴木夏美の肩が抱かれ、彼女はようやく我に返った。
「何を見ているの?」田中大翔は穏やかな声で尋ね、彼女の視線の先を見たが、街灯の下、人気のない通りしか見えず、眉間にしわを寄せた。「和香は?」
「帰ったわ」鈴木夏美は田中大翔に微笑みかけたが、顔色は少し青ざめていた。
「どうしたの?具合でも悪いの?」田中大翔は心配そうに鈴木夏美の肩をつかみ、彼女が強く押さえている手首を見て、眉間のしわを更に深くした。「怪我したの?どうしたの?」
「大したことないわ、ちょっと切っただけ」鈴木夏美は突然疲れを感じ、そう言うと田中大翔の胸に飛び込み、彼の肩に頭を預けた。
「どうしてこんなに不注意なの?」田中大翔は自然に彼女を抱きしめ、叱るような言葉の中に心配が混じっていた。
鈴木夏美は何も言わず、ただ彼の肩で頭を擦り寄せると、涙が目尻から零れ落ちた。
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鈴木和香は団地を出て、適当に方向を選び、目的もなく歩き始めた。
大晦日の夜の通りは、がらんとしていて、人も車もほとんどなかった。
通りの両側にある普段は賑やかな店も、今は全て閉まっていて、時折遠近から爆竹の音が聞こえてきた。
鈴木和香は長い間歩き続け、ようやく立ち止まった。夜も更けており、大晦日なのでタクシーもほとんど走っていない。鈴木和香はバス停のベンチに腰を下ろした。
約十分待ったが、バスは来ず、代わりに道を渡ろうとする老婦人が現れた。
その老婦人は年齢がかなり高そうで、髪は真っ白だったが、歩き方はしっかりしていた。
老婦人が鈴木和香の近くまで来た時、突然角からバイクが飛び出してきた。スピードが速く、老婦人には当たらなかったものの、かすめるように走り去っていった。