第615章 来栖季雄、私は妊娠しました（5）

佳樹兄を傷つけるあなたなんて、私は受け入れられない。

彼女の心の中で、彼は椎名佳樹に及ばないだけでなく、佳樹を傷つけたら、何の価値もない存在になってしまうのだ。

あなたにその資格があるの？

そうだ、彼に資格なんてあるのだろうか？

初めて彼女に会った時、彼女が何気なく背負っていたバッグ一つを買うのに、彼は数ヶ月もアルバイトをしなければならなかった。

彼女が生理痛で病院で休んでいた時、30元の医療費は彼の全財産の60パーセントを使い果たした。一方で彼女が開いたシャネルの財布には、彼が生涯見たこともないほどの大金が詰まっていた。

奈良で、彼女が椎名佳樹と鈴木夏美とショッピングをしていた時、5桁の値段の商品を彼女はまばたきひとつせずに次々と買っていた。そして当時彼女を好きだった彼は？ただ恥ずかしく思うばかりだった。なぜなら、そのショッピングモールで一番安い商品でさえ、彼女にプレゼントすることができなかったから。

だから、彼に資格なんてあるのだろうか？

自分には資格がないと分かっていたからこそ、ずっとそれほどまでに、それほどまでに頑張ってきたのだ。

お金があれば資格を得られると思っていたが、結局それは彼の単なる夢想に過ぎなかった。

七夕の夜、彼女が約束を破っても、彼は気にしなかった。

彼女を三日間待っても、彼は気にしなかった。

さらには、彼女が他人に巻き込まれて薬物スキャンダルを起こし、世間からの非難や罵倒の的になった時でさえ、彼は自ら進んで彼女を守ろうとした。

自分の弱みが露呈すれば、必ず誰かが背後から足を引っ張ってくるだろうと分かっていた。

でも、彼は彼女の幸せだけを願っていた。

彼女を愛することを決めた瞬間から、彼は彼女を守ろうと思っていた。

しかし彼が「愛している」を与えると、彼女は「あなたに資格があるの？」を返してきた。

そうだ、彼には資格がない。彼女は両親を失ったとはいえ、それでも輝かしい出自を持ち、堂々としていた。

彼は？不倫相手の子供、売春婦の息子、隠し子……この世で最も汚い言葉が全て彼に当てはまる。

あの時、彼に関するスキャンダルがSNSで最も激しく騒がれ、彼の過去も、母親の過去も、誰かによって一つ一つ暴露されていった。