第622章 来栖季雄、私は妊娠しました(12)

鈴木和香はフランス語を学んだことがなく、二人が何を話しているのかよく分からなかったが、二人の顔に浮かぶ笑顔と、時折人目も気にせずに交わすキスから、きっと甘い言葉を交わしているのだろうと推測できた。

最上階から降りる間、来栖季雄と鈴木和香の二人には会話がなかった。和香は何度か季雄の様子をこっそり窺ったが、彼は相変わらず彼女の存在を無視するかのような冷淡な表情を浮かべていた。

エレベーターが一階で止まり、ドアが開いた時、来栖季雄の携帯が鳴った。彼は電話に出ながらエレベーターの外に歩き出し、彼の後ろに立っていた和香は、彼が英語で「すぐに出る」と言うのを聞いた。

和香は季雄の後に続いてホテルを出た。季雄は携帯を持ちながら周りを見回し、赤いフェラーリの前に立つ金髪の美女を見つけると、電話を切って彼女の方へ歩み寄った。