第652章 携帯の中のメッセージ(2)

鈴木和香は落ち着いて椅子に座り、メイクの直しに近づいてきたメイクアップアーティストに手を振って制した。

メイクアップアーティストは鈴木和香の意図が分からず、ただ横に立ち尽くすしかなかった。

少し離れた場所にいた林夏音は、この光景を見て冷笑し、落ち着き払って顎を上げ、自分のメイクアップアーティストにメイク直しをさせていた。

撮影現場を確認し終えた監督が、メイクルームに戻ってきて、二人のメイク直しが終わったかどうか確認しようとしたが、鈴木和香がきちんと座ったままメイク直しを始めていないのを見て、思わず眉をひそめた。「和香さん、まだメイク直ししていないんですか?」

鈴木和香は目の前の二つの台本を見つめ、妥協の余地なく、最初の台本を指差して言った。「この台本なら撮影しますが、こちらの台本なら撮影しません。」

「撮影しない?じゃあ私のメイクは無駄になるじゃない?」林夏音は突然振り向いて、監督に怒りを込めて尋ねた。

撮影現場では、投資家が最も発言力を持っており、監督でさえ投資を持ち込んだ林夏音に対して譲歩せざるを得なかった。そのため、彼女の言葉を聞いた瞬間、鈴木和香を睨みつけた。「和香さん、契約書にサインしたことを忘れないでください。撮影しないなんて勝手なことは言えませんよ。」

そして、横のメイクアップアーティストに目配せをした。「早く彼女のメイクを直してください。何をぼんやりしているんですか?」

言い終わると、さらにぶつぶつと言った。「何様のつもりだ、台本に文句をつけて。自分で投資して撮影でもすればいいじゃないか?」

監督の独り言を聞いた林夏音は、くすくすと笑い、先ほどの馬場萌子の言葉を引用して皮肉った。「監督、気をつけてくださいよ。鈴木和香さんの後ろ盾は大したものですからね。私たちを有給休暇に追いやることができるだけでなく、私のシーンを一瞬で全カットできる。それどころか、あなたの撮影を一瞬で中止にすることだってできるんですよ...」

林夏音の言葉が終わらないうちに、突然メイクルームの入り口から驚きの声が上がった。「来栖スター!」

すると、メイクルーム内の全員が入り口の方を見た。そこには黒い長いコートを着た来栖季雄が、背筋を伸ばして立っており、全身から清々しい雰囲気を漂わせていた。

来栖季雄の出現により、メイクルーム内は一瞬にして静まり返った。