鈴木和香は見なかったふりをして、何事もなかったように丁寧に指を拭き、ドアを開けて出て行った。
トイレのドアが閉まる音が聞こえるまで、林夏音の目の中の悔しさは消えず、代わりに涙が溢れ出した。
以前から、彼女は鈴木和香が気に入らなかった。来栖季雄がいたため、彼女が鈴木和香と対立するたびに、いつも惨めな結果に終わっていた。今は同じ撮影現場にいて、今回彼女が鈴木和香にこのような態度を取れたのは、来栖季雄が東京を離れたと聞いたからだった。しかし、またしても自分で自分の首を絞めることになってしまった。
来栖季雄は消えたはずじゃなかったの?なぜ突然また現れたの?
林夏音は眉間にしわを寄せた。昨夜、彼氏とフォーシーズンホテルに行った時、来栖季雄によく似た人物が背の高い外国人女性と一緒に部屋に入るのを見かけたことを思い出した...。その時は来栖季雄に似た人だと思ったが、今考えると本当に来栖季雄だったのかもしれない...