第841章 エピローグ（1）

事態はあまりにも突然に起こり、鈴木和香は何が起きたのか理解する間もなかった。突然、横から人影が飛び出して彼女の前に立ちはだかった。その勢いがあまりに強く、和香は後ろに二歩ほど押し戻され、腰が洗面台にぶつかって痛みに眉をひそめた。そして次の瞬間、肉が刺し貫かれる音が聞こえた。

世界は、その一瞬で静止した。

和香は自分の前に立ちはだかった人を振り向いて見ることはなかったが、その人が彼女の前に倒れ込んだ時、その体から漂う微かな香水の香りで誰なのかわかっていた。

彼女は鈴木夏美の肩越しに、向かい側にいるマスクをした赤嶺絹代を見つめた。

血しぶきが飛び散った時、それは彼女の顔に直撃し、白いマスクの上に大きな赤い花が咲いた。

凄惨な光景だった。

和香は目を大きく見開き、唇を何度か震わせてから、ゆっくりと顔を向け、夏美が彼女の肩にもたれかかり、紙のように青白い顔で呼吸が荒く不安定になっているのを見た。

和香は何度か口を開こうとして、やっと微かな声を絞り出した。「姉さん…」

彼女の声が落ち着くと同時に、和香は液体が床に滴る音をはっきりと聞いた。

彼女は思わず下を見ると、自分の足元が血だらけになっていることに気づいた。次の瞬間、彼女は狂ったように突然声を張り上げて叫んだ。「来栖季雄、来栖季雄、来栖季雄…！」

力を込めて叫んだため、和香は最後の方で声が裏返った。

ドアの外にいた馬場萌子はその声を聞いて驚き、思わずドアを開けた。「どうしたの、鈴木…」

萌子の言葉は途中で途切れ、洗面所の光景に顔面蒼白になり、言葉も詰まった。「お、お、鈴木姉さん…どう…」

「夏美、夏美…怖がらせないで、怖がらせないで…」和香は慌てて手を伸ばし、夏美の傷口を押さえて血を止めようとしたが、その鮮血は彼女の指の間から絶え間なく溢れ続けた。和香は焦って涙がぽろぽろと落ちてきた。萌子に怒るべきではないとわかっていたが、怒りを込めた声で言った。「萌子、何ぼーっとしてるの？早く救急車を呼んで、季雄を呼んでよ！」

最後の「よ！」という言葉を和香は長く引き伸ばし、それが萌子を目覚めさせた。彼女は考える間もなく洗面所から飛び出し、外に向かって大声で叫んだ。「人殺しだ、人殺しだ！」