次の日。
斎藤咲子は目を開けた。
彼女のベッドの横に立っていたのは根岸峰尾だった。
当然、慣れない状況だった。
斎藤咲子は思わず布団を引き寄せた。
根岸峰尾は彼女を見つめていた。
斎藤咲子は「起きてからずっとですか?」と尋ねた。
「少しだけ」
「ちょっと待っていてください。起きたら朝食を食べに連れて行きますから」
「はい」根岸峰尾は頷いた。
「少し席を外してもらえますか」斎藤咲子は促した。
根岸峰尾は一瞬固まった。
すぐに顔を赤らめ、斎藤咲子に背を向けた。
斎藤咲子は根岸峰尾の背中を見つめ、小さくため息をついた。
やはり慣れない状況だった。
彼女が極めて控えめな服装をしていても。
彼女は起き上がって身支度を整え、外出着に着替えて根岸峰尾と共に外出した。
ロビーでは、渡辺菖蒲と村上紀文、そして加賀千明が朝食を取っていた。
斎藤咲子は彼らを見向きもしなかった。
「こんな早くから野良男と出かけるの?」渡辺菖蒲の皮肉な声が斎藤咲子の耳に届いた。「本当に恥知らずね。適当に男を家に連れ込んで泊めるなんて。亡くなったお父さんに申し訳ないと思わないの!」
斎藤祐の話を持ち出さなければよかったのに。
斎藤咲子は立ち去ろうとした足を引き返し、渡辺菖蒲に向かって歩み寄った。
渡辺菖蒲は斎藤咲子を見て、ひるむことなく挑発的な表情を浮かべた。
「その口を慎みなさい!村上紀文との約束を反故にしないように気をつけなさい!」
「紀文が何を約束したの?」渡辺菖蒲は激しく言い返し、村上紀文を見た。その瞬間、興奮した様子で言った。「私に土下座しろだって?死んでもしないわよ!」
「安心して。あなたの息子は素直で親孝行だから、あなたの代わりに彼が土下座するわ!」
「何ですって?!」
「ちょうど皆さんがいらっしゃるところで、村上紀文、昨日約束したことを実行してください。私も早く警察署に行って事件を片付けたいので」斎藤咲子は村上紀文を見つめた。
村上紀文はその時、ナイフとフォークを握る手に力を入れていた。
斎藤咲子は少し心配になった。村上紀文が手に持っているディナーナイフを彼女の胸に突き刺すのではないかと。そのため、用心深く距離を置いた。