「食事の用意ができました」
部屋の中から、冬木空の低くて磁性のある声が聞こえてきた。
「ちょっと顔を洗ってきます」北村忠はトイレに向かった。
鈴木知得留と冬木空は食卓に座っていた。
冬木空は鈴木知得留のために卵の殻をむいていた。
北村忠は顔を洗い終わり、遠くから二人を眺めていた。
彼は考えていた。夫婦仲が良いと、お互いに卵の殻をむいてあげるものなのかと。
父親もそうだったし、今の冬木空もそうだ。
彼は二人の前に座り込んだ。
二人は彼の存在に気づいていないようだった。
鈴木知得留は「卵は食べなくてもいい?本当に好きじゃないの」と言った。
「だめだ。卵は栄養価が高いから、毎日一個は必ず摂取しないと。これ以上減らすのは許さない」
「黄身は食べなくていい?」
「黄身にはレシチンが含まれていて、脳に良いんだ」