第580章 形勢逆転(その1)

北村忠はそのまま道明寺華が近づいてくるのを見つめていた。

彼は柔らかな唇が自分の唇に触れるのを感じた。実際にはそれほど力強くなかった。

北村忠の涙は狂ったように止めどなく流れ落ちた。

その瞬間、道明寺華の意思に従い、噛み砕いた薬を再び彼女の口の中に入れた。

道明寺華は護心丸を全て飲み込んだ。

彼女は北村忠から離れた。

離れた瞬間、北村忠は突然道明寺華を抱きしめ、彼女の唇を再び強く押し付け、深く口づけた。

道明寺華の瞳が僅かに動いた。

彼女は顔を上げて北村忠を見つめ、涙に濡れた彼の顔を見た。

心の中で、何か動くものを感じた。

その瞬間、彼女は北村忠を押しのけるだけの力がないのではなく、押しのけようと思わなかったことを明確に理解していた。

北村忠は心を痛めながらキスをした。

彼はしばらくの間。

なかなか名残惜しそうに彼女を放した。

彼は言った、「華、絶対に死んではいけない。」

道明寺華の喉が動いた。

彼女の目は少し赤くなっていた。

彼女は北村忠が子供のように泣いている様子を見つめていた。

彼女は実際、なぜ北村忠がいつも泣き、いつも大声で泣くのかよく分からなかった。そして彼女は実際、あまりにも弱い人が好きではなかったが、この瞬間、なぜか胸が痛み、北村忠の別れを惜しむ気持ちに何故か胸が痛んだ。

だから。

彼女は頷いた。

北村忠は相変わらず泣き止まなかった。

北村忠は相変わらず、彼女が本当に死んでしまうことをとても恐れていた。

鈴木知得留も傍らで道明寺華と北村忠を見つめており、彼女の目も赤くなっていた。

もし本当にこんな事態にならなければ、華に自分のために危険を冒させたりしなかった、絶対にしなかった。

もし華が何かあったら……

いや。

彼女は今、そこまで考える余裕はなかった。

彼女は今、清水紗佳を殺したい、あの女を八つ裂きにしたいという思いしかなかった!

彼女は歯を食いしばった。

優柔不断にならないようにした。

その時。

鈴木友道はヘリコプターを操縦して、先ほどの場所に戻っていた。

下では、まだ群れをなした狼犬たちが上野和明と冬木空の周りを取り囲み、交代で彼らの体を噛みちぎろうとしていた。

冬木空は本当に血まみれになっていた。

上野和明も今や体中が血だらけだった。

二人とも見るからに凄惨な姿だった。