部屋は中にある。
斎藤咲子の冷たい声が、ゆっくりと淡々と響いた。
村上紀文はただそれを聞いていた。
斎藤咲子は再び真剣に言った。「村上紀文、私にこんな風に苦しめられるくらいなら、渡辺菖蒲のことを放っておいて、彼女を何もない状態に戻した方がいい。そうすれば、あなたの望むものをすべて与えるわ」
「それはできない」村上紀文は断固として答えた。
彼も母親が自分のすべての感情を使い果たしたと感じていたが、彼女を見捨てることはできなかった。
感情的には与えなくても、金銭的には保証するつもりだった。
斎藤咲子は少し笑った。「いつかあなたは渡辺菖蒲のせいで失敗するわ。この人生、彼女と一緒に自滅するといいわ」
村上紀文は反論しなかった。
斎藤咲子は携帯を置いた。「私についてきて踏みにじられるかどうかはあなた次第。でも今後、渡辺菖蒲に会ったり、彼女が問題を起こしたりしたら、あなたも含めて、一切の面子を立てないわよ」
「わかった」
彼はうなずいた。
斎藤咲子はそれ以上何も言わなかった。
彼女は布団をかぶって寝た。
村上紀文は彼女が横になるのを見て、ゆっくりと布団をめくってベッドに入った。
彼は斎藤咲子から近すぎず遠すぎない場所に寝た。
二人の間には深い溝があった。
「村上紀文、これからは私を喜ばせる方法を学んでほしいわ」斎藤咲子が突然口を開いた。
村上紀文は体を向けた。
「前にも注意したけど、あなたはあまりうまくやっていないみたいね。私が欲しいのは木の人形じゃないのよ」斎藤咲子は率直に言った。
「わかった」村上紀文は答えた。
彼は突然斎藤咲子に近づいた。
斎藤咲子は彼を見つめた。
「こういうことは、毎回私から言わなければならないのは嫌なのよ」斎藤咲子は再び言った。
「わかった」村上紀文はうなずいた。
「あなたの技術はとても普通だから、もっと学んでほしいわ」
「...わかった」
夜はさらに深くなった。
村上紀文は一生懸命斎藤咲子を喜ばせようとしていた。
斎藤咲子は黙って受け入れていた。
受け入れながらも、愛のない歓びだった。
...
翌日。
村上紀文は早朝に起き、規則正しく朝食を作った。
斎藤咲子は食卓に座っていた。
村上紀文は朝食を彼女の前に置いた。
斎藤咲子は村上紀文を見た。