番外069 赤ちゃんが私を蹴ったよ、感じた?(三更)

村上紀文の大きな手が、斎藤咲子の膨らんだお腹に置かれた。

お腹は硬く、温かかった。

村上紀文の思わずの行動に、彼の胸の鼓動が止まらなくなり、心の中の温かさが熱い流れのように、胸の中でずっと揺れ続けていた。

なぜか感動した。

なぜかめちゃくちゃに感動してしまった。

斎藤咲子もその瞬間、固まった。

彼女は数秒我慢した後、村上紀文を押しのけようとした。

二人は突然動きを止めた。

なぜなら赤ちゃんがこの瞬間、はっきりと村上紀文の手のひらに向かって、一度突いたからだ。

村上紀文の手が動くほど強く突いた。

村上紀文は自分の感覚を信じられず、斎藤咲子を見て、少し興奮して言った。「彼女が私を蹴ったよ。」

斎藤咲子は彼を見つめた。

「彼女は本当に私を蹴ったんだ。感じたかい?」村上紀文は言った。手のひらの感触が非現実的なようで、それでいて彼の心の中でとても現実的に響いていた。

彼はこの感覚を言葉で表現することができなかった。

手のひらでほんの少し動いただけなのに、その動きが彼の全身に広がっているようだった。

彼の興奮した表情は、斎藤咲子の冷淡な表情の下で、徐々に引いていった。

彼は唇を引き締めた。

自分の内なる感情をゆっくりと冷ましていった。

しかし結局、心の中に火の玉があるかのように、落ち着くことができなかった。

彼は手のひらを斎藤咲子のお腹から離した。

彼はこれほどまでに愛着を感じ、これほどまでに名残惜しく思うとは思ってもみなかった。

斎藤咲子は彼よりもずっと落ち着いていた。

今、赤ちゃんも少し大人しくなり、彼女は車から降りた。

村上紀文は彼女の隣に立った。

彼女は言った。「送ってくれてありがとう。さようなら。」

「斎藤咲子。」村上紀文は突然彼女を呼び止めた。

斎藤咲子は足を止めた。

「そんなに無理しないで。自分自身に、赤ちゃんに...もう少し優しくして。」

斎藤咲子は答えなかった。

彼女は歩き去った。

しかし背後には常に一つの視線があり、彼女を見つめているようだった。

彼女は先ほど村上紀文がなぜあんなに興奮していたのか分からなかった。彼が驚いていたのかどうか分からなかった。彼女は分からなかった...

彼女の目は少し赤くなっていた。

彼女はマンションに入り、多くのことをそのまま隠し続けた。