堂々たる江川家の奥様として……
園田円香は瞼を伏せた。かつては彼女の生涯の夢だったが、今聞くと皮肉にしか聞こえない。
彼女はほとんど考えることなく答えた。「いいえ」
その言葉に、江川おばあさんは呆然とし、玄関にいた江口侑樹の黒い瞳が鋭く細められた。
この女、またお芝居を始めるつもりか?
江川おばあさんは園田円香が江口侑樹をどれほど好きだったか知っていた。今や二人は結婚しているのに、彼女は正式な立場を望まないのだろうか?
理解できずに尋ねた。「円香、どうして嫌なの?」
少し間を置いて、何かを思いついたように推測して声に出した。「もしかして侑樹が嫌がると思って、彼を追い詰めたくないの?円香、そんなに自分を抑える必要はないわ」
園田円香「……」
彼女はすぐには反論できなかった。以前の自分は江口侑樹一筋で、彼のために自分を抑えることも多かったから、江川おばあさんの心にそう刻まれていたのだ。
今のように目が覚めていなければ、園田円香は自分がこれまでいかに卑屈な愛し方をしていたか気付かなかっただろう。
「江川おばあさん、そうじゃないんです。それは……」園田円香は黒い瞳を揺らし、言いかけては止めた。
江口侑樹が彼女にひどいことをしたとはいえ、江川おばあさんは彼女に良くしてくれた。今しがた命を救ってもらったばかりだし、刺激したくなかった。
言葉を選びながら、重要な部分を避けて軽く言った。「私と侑樹さんの結婚は、私たち二人とも望んでいなかったものです。いずれ離婚することになるので、公表する必要はありません」
「まあ……」江川おばあさんは焦った。「円香、あなたたち結婚したばかりじゃない。どうして離婚なんて。侑樹のバカ息子が今回したことは良くなかったのは分かってるわ。おばあちゃんがしっかり叱っておくから、それで拗ねないで」
園田円香は諦めたように言った。「江川おばあさん、拗ねているわけじゃありません。私と侑樹さんの間にはもう感情がないんです。今回の結婚も、ただ……」
彼女は「復讐」という言葉を飲み込んで、「おばあさんへの責任を果たすためだけで、それに……」と言い換えた。
言葉が終わらないうちに、江川おばあさんが遮った。「でも結婚したのよ。円香、感情は育てていけるものよ。侑樹のバカ息子に……もう一度チャンスをあげてみない?」