園田円香は言葉を失った。これは明らかに彼女のセリフだったのに!
「いいえ……」安藤秘書が立ち去ろうとするのを見て、園田円香は慌てて彼の前に立ちはだかった。「安藤さん、江川社長の面倒を見るのはあなたの仕事じゃないんですか?彼はあなたの上司でしょう!」
安藤秘書は反論した。「でも園田さん、江川社長はあなたの旦那様じゃないですか!」
「……」園田円香は返す言葉がなかった。
さすが江口侑樹というクソ男の秘書だ。一言で彼女を黙らせることができる。
「それに、園田さん、私のような男は手が荒いですから、女性のあなたの方が細やかな気配りができます。だから、江川社長の看病はあなたが一番適任です!よろしくお願いします!」
園田円香が何か言う前に、安藤秘書は足に油を塗ったかのように素早くスイートルームを出て行き、ドアの閉まる音だけが残った。
エレベーターに乗ってから、やっと安藤秘書はほっと息をついた。
もし彼が社長の意図を読み違えていなければ、ボスは確実に園田さんに残って看病してほしいはずだ。さっき園田さんを車に乗せた時、ボスは黙認していたし、他の女性を探すと言った時は殺人的な視線を向けられたのだから!
安藤秘書は考えれば考えるほど確信を深めた。そうであれば、もう一押し強力な助けを入れよう。何かを思いついたように、彼は口角を上げた。
ホテルを出て、向かいの大型ショッピングモールへと向かった。
…
部屋の中。
園田円香は足を動かした。本当は帰りたかった。ここまで付き添ってきたのだから、江口侑樹に対して十分な義理は果たしたはず。結局のところ……彼らは本当の夫婦ではないのだから!
彼の面倒を見る義務なんてないはずだ。
園田円香は足を上げたが、なかなか一歩を踏み出すことができなかった。
両手を強く握りしめ、歯を食いしばった後、結局またベッドの側まで戻ってきた。
しょうがない、彼女は恩を知る人間だ!どう考えても、彼女が病気の時、江口侑樹も一晩中看病してくれたのだから。
そう自分を納得させると、園田円香はもう悩まなくなった。
江口侑樹はすでに眠りについていたが、安らかな眠りとは言えなかった。傷の痛みか、まだ残っている薬の影響か、額には冷や汗が滲み、眉間にはしわが寄っていた。