部屋には誰もおらず、病床のベッドは布団と枕がきちんと整えられ、シーツもきれいに敷かれていて、まるで誰も寝ていないかのようだった。
園田円香は眉をひそめ、心の中に不吉な予感が湧き上がってきた。彼女はまず中に入って持ってきた物をソファに置き、その後振り返って出て行き、ナースステーションへと向かった。
彼女は頻繁に来ていたので、ナースステーションの看護師は彼女のことをよく知っていた。彼女を見かけるなり、親切に挨拶をした。「園田さん、また弟さんの見舞いですか。」
突然、看護師は何かがおかしいことに気づき、付け加えた。「あれ、おかしいですね。弟さんは一昨日退院されましたよ。どうして来られたんですか?」
一昨日退院?
園田円香の表情が変わった。「誰が退院の手続きをしたんですか?」
看護師は園田円香の様子がおかしいのを見て、余計なことは聞かずに、すぐに記録を確認して答えた。「園田さんと園田夫人が手続きをされて、お二人で連れて帰られましたよ。ご存じなかったんですか?」
園田さんと園田夫人……つまり彼女の両親だ。
山田真澄の体調は徐々に回復していたとはいえ、まだ退院の基準には達していなかった。しかも彼の体は非常にデリケートで、家に帰って十分なケアができないのなら、病院にいた方が安全だった。
それに、両親が彼女と山田真澄に対してどういう態度をとっているか、彼女は十分すぎるほど分かっていた。彼らが子を思う気持ちから山田真澄を引き取ったとは、とても思えなかった!
園田円香の手が突然握りしめられ、瞳の光が完全に沈んでいった。
看護師はその様子を見て、心配そうに声をかけた。「園田さん、大丈夫ですか?真澄くんは…何か問題があったんじゃないですか?」
山田真澄は病院に何年も入院していて、容姿が端正で性格も穏やかだった。それに心臓が悪く、何度も発作を繰り返していたため、看護師たちは彼の世話をしながらずっと付き添っていた。特に彼を気の毒に思い、格別な関心を寄せていた。
「ご心配ありがとうございます。真澄は大丈夫です。私も…何も起こさせません、ご安心ください。」園田円香は一言一言丁寧に答えた。それは看護師を安心させる言葉であると同時に、自分自身を励ます言葉でもあった。
園田円香は急いで病院を出て、タクシーを拾い、乗り込むと園田家の住所を告げた。