園田円香の胸がドキッと鳴り、全身から冷や汗が止まらなくなった。
足を止めたくなかったが、止めなければ確実に疑われてしまう……
結局、彼女は部屋から飛び出したい衝動を必死に抑え、その場に立ち尽くすしかなかった。ただし、背筋は思わず硬直してしまっていた。
数秒待ったが、江口侑樹からの言葉はなかった。しかし、彼女は男の深く冷たい視線が自分に向けられているのを感じた。その眼差しは、まるで刃物のように彼女を突き刺すようだった。
その視線に、園田円香はもう表面的な冷静さを保てなくなりそうだった。彼女は硬い表情で微かな笑みを浮かべ、弱々しく口を開いて沈黙を破った。「江川坊ちゃん、他に何かご用でしょうか?」
江口侑樹は黒い瞳を細め、園田円香の仮面をつけた顔を数秒見つめた後、薄い唇を開いて冷たく言葉を吐いた。
「勝ったチップを持って行け」
チップ?
園田円香は一瞬呆然として、理解できなかった。
江口侑樹の機嫌は極めて悪そうで、全く忍耐がないようだった。彼女が動かないのを見て、さらに厳しく皮肉った。「どうした?私が直接手渡さないといけないのか?」
「……」彼女にそんな迷惑をかける勇気なんてあるはずがない!
園田円香は体を震わせ、急に我に返った。数歩前に出て、彼女が勝ち取った二十五枚のチップを手に取った。
「ありがとうございます、江川坊ちゃん!」彼女は非常に「感謝」する口調でそう言った後、急いで個室を出た。
ドアの前で待っていた菜々は園田円香が出てくるのを見て、すぐに駆け寄り、上下左右を丁寧にチェックし、仮面も外して確認した。彼女が無事なのを確認して、やっと胸を撫で下ろした。
思わず言った。「円香、無事でよかった。さっき個室の中の物音を聞いて、何かあったのかと思って、本当に心配したわ!」
彼女が話し終わっても、園田円香は返事をしなかった。不思議に思って彼女を見ると、呆然とした表情をしているのに気づいた。落ち着いたはずの心がまた浮き立った。「円香、どうしたの?まさか何かされたんじゃ……」
お酒を無理やり飲まされた?それとも何か薬を飲まされた?
彼女はそう言いながら、手を上げて園田円香の目の前で振り、意識を取り戻そうとした。