第64章 彼女を断れない

江口侑樹は瞼を上げ、黒い瞳で扉を見つめた。まるでその扉を通して、入り口に立っている園田円香が見えるかのようだった。

彼女はお金を借りに来るのだろうか？

長い指が机の上に置かれ、無意識に軽く叩いていた。

彼はいつも……園田円香がお金のために、利益のために手段を選ばない姿を嫌っていたが、今回、もし彼女が口を開けば……

江口侑樹は軽く目を閉じた。

おそらく、今回でなくても、他のどんな時でも、彼女が身動きが取れない状況でなくても、彼女が明らかに計算づくだったとしても、彼女が望むなら、彼女が口を開くなら、彼は彼女を断ることができないのだろう？

…

園田円香は確かに書斎の前まで来ていたが、何度も手を上げてノックしようとし、何度も最後の瞬間に手を下ろしてしまった。

彼女と江口侑樹の間は名ばかりの夫婦で、さらに江口侑樹は彼女に対して多くの誤解があり、彼女を深く憎んでいた。彼女の言葉を、彼は信じないかもしれない。むしろ、また嘘をついてお金を騙し取ろうとしていると思うかもしれない。

彼女は思わず以前江口侑樹が彼女に言った言葉を思い出した——「お金はそう簡単には稼げないと思え。お前が人に仕えることを覚えたら、その時に弟の医療費が振り込まれる！」

今日、もし彼女が江口侑樹にこのことを切り出せば、きっと体で奉仕して金を得ることになるだろう。彼の最も好きなことは、お金で彼女を辱めることではないか。

園田円香の足は、無意識のうちに後ろに下がった。

笑い話のようだが、誰もが持っているちょっとした自尊心は、重要でない人に対しては捨てることができる。しかし、かつて大切に思っていた人、かつて深く愛していた人に対しては、その滑稽な自尊心を死守し、決して妥協しようとしない。

彼女は何度も躊躇した末、ついに足を上げ、振り返り、立ち去った。

主寝室に戻ると、園田円香は携帯電話を手に取り、知り合いの人脈に一斉にメッセージを送り、すぐに金になる、報酬の高い仕事がないか尋ねた。

まだ三日ある、他のチャンスもあるはずだ！

一晩中、園田円香は体が疲れていたにもかかわらず、心が不安で、ベッドの上で寝返りを打ち、なかなか眠れなかった。

幸い、江口侑樹は書斎で何かに忙しく、ずっと部屋に戻ってこなかったので、園田円香はほっと胸をなでおろした。