…
茶室の中。
黒田時久は彼らがいつも飲む数種類のお茶を注文し、店員が淹れようとしたとき、安藤吉実が声を上げた。「私が淹れましょう」
店員は思わず黒田時久の方を見て、目で指示を仰いでいた。
黒田時久は眉を上げ、顔を安藤吉実の方に向けて、「お茶を淹れられるの?」
「もちろんです」安藤吉実は微笑んで、彼と視線を交わし、また江口侑樹の方を向いた。「侑樹...あなたたち、お茶が好きでしょう?私、海外にいた時に先生について特別に習ったんです」
少し間を置いて、彼女は付け加えた。「お茶をご馳走になっているので、お返しに私が淹れさせていただきます」
お茶を習うなんて、彼女の性格にぴったりだった。上品で優しい。
黒田時久は興味深そうに頷いた。「じゃあ、腕前を拝見させてもらおう」
彼は店員に顎をしゃくって、「下がっていいよ」
「はい、黒田さま」店員は立ち上がり、軽く頭を下げて、茶室を出て行った。
安藤吉実は彼らの向かい側に座り、クッションの上に正座した。彼女は少し袖をまくり上げ、白く美しい両手を見せ、まず横にある清水の入った陶器に手を入れ、手を清めた。
その後、小さな箸を取り、茶葉を少々摘んで急須に入れ、沸騰したお湯を持ち上げて急須に注いだ。
しばらく待ってから、一煎目のお茶を茶碗に注ぎ、それぞれ湯冷ましをし、箸で茶碗を挟んで、一つを黒田時久の前に、もう一つを江口侑樹の前に置いた。
彼女の動作は非常に優雅で、美しく、見ていて心地よかった。
黒田時久は美人を見るのが好きで、様々な美人を見てきたが、一絵は確かに彼が見てきた美人の中で、美しいだけでなく、振る舞いや話し方も極上だった。
まさに女神のような存在だった。
もし当時一絵が海外に行かず、ずっと彼らと一緒にいたら、おそらく侑樹さんと一絵はとっくに結ばれて、子供も走り回っていただろう...園田円香なんて出てこなかったはず。侑樹さんも傷つけられることもなく、あの生きる気力を失った二年間も経験しなかっただろう。
このことがあって、彼はずっと園田円香に良い感情を持てなかった。今一絵を見て、感慨深く思う。侑樹さんと釣り合うのは、やはり一絵の方が相応しい。
そう考えていると、鼻をくすぐるお茶の香りが、彼の意識を現実に引き戻した。