園田円香は静かに目を上げて、「誰に会うの?」と尋ねた。
江口侑樹は笑うだけで何も言わず、手を伸ばして園田円香を抱き上げ、そのまま浴室へと向かった。
園田円香は抵抗せず、バランスを保つために彼の首に両手を回し、額を男の額に軽く当てながら文句を言った。「まだ私をやきもきさせるつもり?」
江口侑樹は園田円香の身支度を手伝い、着替えも済ませてから、二人で外出した。
約40分後、車はホテルの玄関に停まった。江口侑樹がいつも利用しているホテルだった。
車を降りると、江口侑樹は駐車係に鍵を投げ渡し、園田円香の手を取ってホテルに入り、エレベーターで上階へ向かった。
彼専用のスイートルームの前に着いたが、江口侑樹はいつものようにカードで開けることはせず、礼儀正しくドアをノックした。
すぐに、ドアの向こうから足音が聞こえ、ドアが開いた。
最初に目に入ったのは、眼鏡をかけた少し太めの女性で、園田円香は思わず江口侑樹を見た。
彼の専用スイートに女性がいる?
江口侑樹が何か言う前に、その女性が笑顔で先に挨拶をした。「江川社長、いらっしゃいました。」
少し間を置いて、彼女は園田円香を見て、とても丁寧に言った。「こちらが江川夫人でいらっしゃいますね。はじめまして。」
園田円香は我に返り、笑顔を浮かべて「はじめまして。」と返した。
女性は体を横に寄せ、「江川社長、奥様、どうぞお入りください。」
江口侑樹は園田円香の腰に手を回し、彼女を部屋の中へ導いた。
窓際に白髪の老人が立っており、足音を聞いて振り返り、こちらを見た。
園田円香はその老人を見た瞬間、誰なのかすぐに分かった。
以前、彼の経歴と写真を見たことがあったからだ。
ジェームズ博士、著名な婦人科の名医だった。
老人は年を取っていたが、とても元気そうに見え、日頃から運動を続けているようで、体つきも老けて見えず、むしろ凛々しかった。
江口侑樹は黒い瞳で園田円香を見つめ、やっと優しく紹介した。「こちらがジェームズ博士です。先ほどの女性は彼の助手の琳です。」
そして、ジェームズ博士の方を向いて言った。「博士、こちらが私の妻の園田円香です。」
園田円香は二歩前に出て、敬意を込めて挨拶した。「ジェームズ博士、はじめまして。お目にかかれて光栄です。」