第305章 生還の可能性なし

染野早紀の心臓が激しく鼓動した。見つかったのか?

彼女は急いで海辺に向かって走り出したが、近づいてよく見ると、木下が引きずっているものは園田円香ではなく、鉄の棒だった。

彼女の足が止まった。

木下はその鉄の棒を引きずりながら、一歩一歩岸に上がってきた。彼はマスクを外し、鉄の棒を砂浜に投げ捨て、少し息を切らしながら染野早紀を見て報告した。「奥様、この鉄の棒しか見つかりませんでした。」

染野早紀は手を強く握りしめ、歯を食いしばるように言った。「私が探してほしいのは円香よ。こんなものじゃない!」

この鉄の棒なんて何の役に立つというの?

木下は説明を続けた。「この鉄の棒の近くに切れた縄の残骸も見つかりました。私の推測が正しければ、園田さんはこの鉄の棒に縛り付けられ、潮が満ちてくる中で溺死したものと思われます。」

「その後、園田さんと鉄の棒、そして縄は引き潮で海に流され、沈んでしまったのでしょう。」

「園田さんの遺体はすでに深い海に流されてしまい、発見できる可能性は極めて低いです。」

というより、もう見つけることは不可能でしょう!

「黙りなさい。」

染野早紀は冷たい声で叱責した。「人を探すように言ったのよ。無駄話を聞きに来たんじゃない。今すぐ戻って探しなさい。人が見つからないなら、上がってこないで!」

木下はもう説明しようとはしなかった。主の命令が何より優先され、彼は若様の命令で染野早紀を守るために来ているのだから、彼女の言うことも聞かなければならない。

彼は再びマスクを付け、海に飛び込んだ。

染野早紀は突然唇を手で押さえ、涙がぽろぽろと落ちた。

実は彼女も心の中ではよくわかっていた。木下は秦野慶典と同じように寡黙だが、幼い頃からの訓練で非常に鋭く専門的な判断力を持っている。彼がこのようなことを言うということは、彼の言葉が真実に近く、円香が生存している可能性はほとんどないということを示している。

でも彼女は信じたくなかったし、信じることもできなかった!

もし彼女までも円香を諦めてしまったら、この世界から本当に円香がいなくなってしまう。

一日、二日、三日...どれだけの日数が経ったのかわからないが...園田円香の遺体はまだ見つからなかった。

警察は捜索を打ち切り、園田円香の死亡を告知する通告を出した。