彼を見かけた染野早紀は銃を手に取り、安全装置を外した。車から降り、ハイヒールを履いたまま江口侑樹に向かって歩いていった。
彼との距離が三歩ほどになったとき、彼女は叫んだ。「侑樹!」
江口侑樹は足を止め、反射的に振り向いた。
その瞬間、染野早紀は秦野慶典に教わった銃の使い方を思い出していた。
速く、正確に、容赦なく。
彼女は手を上げ、男の心臓めがけて、躊躇することなく引き金を引いた。
「侑樹、危ない!」
安藤吉実が車から飛び出し、手を伸ばして江口侑樹を力強く押しのけた。
距離が近かったため、彼女は江口侑樹を押しのけることしかできず、自分は避ける時間がなかった。弾丸が彼女の腕をかすめ、瞬時に服が血で染まった。
彼女は痛みで顔を蒼白にし、崩れ落ちた。
染野早紀は急に厄介者が現れるとは思わなかったが、それもよかった。江口侑樹という裏切り者と小悪魔の安藤吉実が揃っているなら、一緒に片付けてやる!
どうせ安藤吉実だって無実じゃないのだから!
染野早紀は再び銃を握りしめ、江口侑樹に狙いを定めて、再び発砲した。
しかし今度は江口侑樹は警戒していた。むしろ、彼の反応は常人では想像もできないほど素早く、染野早紀が二発目を撃とうとする一秒前には、すでに彼女の目の前に現れ、大きな手で彼女の首を強く掴み、車体に激しく押し付けた。
彼の力は非常に強く、少しも手加減する様子はなかった。染野早紀はすぐに窒息感を覚え、手から力が抜け、銃が地面に落ちた。
江口侑樹は染野早紀を見下ろし、まるで死人を見るような目で彼女を見つめた。数秒後、彼の目に僅かな動揺が見えた。
彼は首を少し傾げ、口を開いた。「染野早紀?」
安藤秘書はこの突然の出来事に頭が追いつかなかったが、その三文字を聞いて我に返り、急いで前に出て諫めた。「江川社長、お手柔らかに。彼女は秦野若様の妻です!」
なぜ染野早紀が突然銃を持って自分の上司を殺そうとしたのか分からなかったが、どう考えても奥様と染野早紀はとても仲の良い姉妹なのだから、社長が彼女を絞め殺すのを黙って見ているわけにはいかなかった。
江口侑樹は目を上げ、安藤秘書を横目で見て、美しい長い指を緩めた。
染野早紀は呼吸ができるようになり、止めどなく激しく咳き込んだ。