紅音を見つけるって?
蒼井陽翔が本当に妹として思ってくれているなら、そんな言葉は言わないはず。
彼女と紅音。
一人は実の娘で、もう一人は養女。
もし紅音が本当に戻ってきたら、蒼井家に自分の居場所はあるのだろうか?
おそらくその時は、紅音の付き添いの下女になるしかないのだろう。
蒼井陽翔は気付かなかったが、蒼井紫苑の伏し目がちな瞳の奥に一瞬、冷たい光が走った。
それはドラマの中で悪役の女性にしか見られない眼差しだった。
しばらくして、蒼井陽翔は立ち上がって言った。「もう遅いから、紫苑、私は部屋に戻って休むよ」
「うん」蒼井紫苑は頷いた。「お兄様、おやすみなさい」
「おやすみ」そう言いながら、蒼井陽翔は何か思い出したように続けた。「そうだ紫苑、明後日海門市で撮影があるんだけど、一緒に来て遊ばない?」
「結構です」蒼井紫苑は躊躇なく断った。「他に用事がありますので」
「紅音を探すこと?」蒼井陽翔は尋ねた。
「はい」蒼井紫苑は頷き、笑顔で言った。「早く姉様に会いたいんです」
それを聞いて、蒼井陽翔は感慨深く思った。紅音を探すために、紫苑は自分の休息時間のほとんどを犠牲にしている。
しかし結局、誰一人として彼女に感謝する者はいない。
蒼井陽翔は心が痛み、蒼井紫苑を見つめながら言った。「紫苑、もういいんじゃないか」
「え?」蒼井紫苑は困惑した様子で蒼井陽翔を見た。
蒼井陽翔は続けた。「紫苑、紅音を探すことは兄さんに任せてみたら?」
紅音を探すことを蒼井琥翔に任せろだって?
蒼井陽翔はどういうつもり?
彼女が紅音の情報を隠すのを恐れているの?
最初は紅音探しに介入しようとし、今度は蒼井琥翔に任せろだって。
やはり、彼女の考えは間違っていなかった。
蒼井陽翔は彼女を疑っているのだ。
蒼井紫苑は目を潤ませ、「お兄様、私を信じていないんですか?」
「いや、違う、絶対そんなことはない」蒼井陽翔はすぐに振り向いて紫苑を慰めた。「紫苑、僕はそんなつもりじゃない。ただ君が疲れすぎるんじゃないかと心配なだけだ。疲れていないなら、今の話は忘れてくれ」
蒼井紫苑は鼻をすすり、声を震わせて言った。「お兄様、姉様のことが分かりさえすれば、どんなに疲れても構いません」