蒼井紫苑は篠崎澪の痩せた手を握り、「ご安心ください。必ず早く姉さんを見つけられますから」と言った。
「うん」篠崎澪は頷いた。
蒼井紫苑は続けて「そういえば、先ほど私に何かご用があるとおっしゃっていましたが?」
篠崎澪はようやく本題を思い出した。「実は、大したことではないんだけど」
ここで篠崎澪は一旦言葉を切り、心の中で言葉を選びながら、「紫苑、もう大きな娘になったでしょう。諺にもあるように、娘が大きくなれば母を避け、父親を避けるものよ。これからは兄たちと付き合う時には、少し気をつけないといけないわ。人の口に上らないように、うちの家の躾が悪いと言われないようにね」
蒼井大婆様は先ほど蒼井修誠を叱ったばかりだった。
蒼井修誠は父親として直接蒼井紫苑と話すのは適切ではないと考え、篠崎澪に頼んだのだ。
今、蒼井修誠は蒼井陽翔の部屋にいた。
篠崎澪も元々これらのことに気付いていなかった。
しかし蒼井大婆様が指摘した以上、重視しなければならない。
これを聞いて、蒼井紫苑の伏し目がちの瞳に暗い影が差した。
彼女は蒼井陽翔と少し親しくなっただけなのに。
彼女と蒼井陽翔は兄妹なのだ。
兄妹が親しくなるのは当然のことではないか。
蒼井家の者はなぜこんなに大げさに騒ぐのか?
もし彼女が篠崎澪の実の子供だったら、こんなことになっただろうか?
笑止だ。
蒼井紫苑は顔を上げて篠崎澪に尋ねたかった。
本当に彼女を実の娘として扱っているのだろうか?
心の中では辛かったが、蒼井紫苑はそれを表に出さず、ただ「はい、お母さん。分かりました。これからは気をつけます」と言った。
篠崎澪も蒼井紫苑の心が傷ついていることを知っており、慰めるように「紫苑、おばあさまも本当はあなたのことを思ってのことよ。兄妹の親密さにも程度というものがあって、どんな時でも一線を越えてはいけないの」
蒼井大婆様は普段蒼井紫苑をあまり好まないが、決して彼女を標的にしたり、あら探しをしたりすることはなかった。
蒼井紫苑は頷いて「分かっています、お母さん。おばあさまが私のことを思ってくださっているのは分かっています」
蒼井紫苑のこの態度を見て、篠崎澪は安心して頷いた。「紫苑、そう考えてくれるなら、母さんも安心よ」
蒼井紫苑が理解できないことを心配していたのだ。