その言葉を聞いて、春日吉珠はほっと胸をなでおろした。
「紅音はいったいどんな感じなの?」春日吉珠は続けて尋ねた。
朝倉渚は笑いながら答えた。「きっと可愛いわよ!私たち蒼井家の遺伝子はこんなに良いんだから、紅音が劣るわけないでしょう?」
春日吉珠は頷いて、「そうね。私も本当に楽しみだわ」と言った。
義姉妹は互いに言葉を交わし合った。
蒼井紫苑は外に立ったまま、眉をひそめた。
楽しみ?
春日吉珠に何が楽しみなことがあるというの。
私だって蒼井家の人間じゃないの?
待っていなさい。
今は蒼井紅音にどれだけ期待していても、その時が来れば、それだけ失望することになるわ。
私は蒼井華和のことを調べた。
生まれも育ちも田舎の村娘。
何もできない。
蒼井家の人々の長所なんて、彼女には微塵も備わっていない。
そう考えると、蒼井紫苑は口角を上げた。
「ここで何してるの?」
その時、突然空気を切り裂くような声が聞こえた。
この突然の声に蒼井紫苑は驚いて振り返ると、そこには蒼井悠唯と朝倉渚の長男がいた。
蒼井詠真。
蒼井詠真は今まさに反抗期真っ只中で、気性が少し変わっていて、普段はバスケットボールに夢中で、病院に来る時でもボールを抱えていた。
蒼井詠真と初めて会った時のことを覚えている。彼のあの傲慢な態度で、蒼井紫苑なんて相手にもしなかった。
しかし、蒼井紫苑の努力の甲斐あって、蒼井詠真の態度は随分良くなっていた。
それでも、彼は未だに蒼井紫苑のことを姉さんと呼ぼうとはしなかった。
普段は「おい」とか「ねぇ」といった言葉で、その一声の「姉さん」を代用していた。
「詠真が来たのね!」
蒼井紫苑は笑顔で振り返った。
蒼井詠真はバスケを終えたばかりで、額には薄く汗が浮かんでいた。「なんで入らないの?」
「今来たところよ」蒼井紫苑は少しも気まずそうな様子もなく、「行きましょう、詠真。一緒に入りましょう」
蒼井詠真は深く考えることもなく、蒼井紫苑の後に続いた。
二人は一緒にドアを押して中に入っていった。
「母さん」
蒼井詠真は朝倉渚の側に行った。
そして礼儀正しく春日吉珠に挨拶をした。「叔母さん」
春日吉珠は笑顔で頷いた。「いい子ね」
言葉に続いて、春日吉珠は「詠真は今年十七歳でしょう?」と尋ねた。