「はい」蒼井華和は軽く頷いた。
神原慶人は続けて尋ねた。「学校名とお名前を教えていただけますか?」
「北橋高校の蒼井華和です」
たった六文字の簡単な答え。
ちょうどその時、そよ風が吹き、前髪が揺れて、乱れた美しさを醸し出した。
彼女は北橋高校の制服を着ていた。
まるで時が止まったかのような静けさがあった。
経験豊富な記者でさえ、この光景を目にして少し呆然としてしまった。この少女は多くの人の青春の象徴に違いない。しかし、神原慶人はさすがプロフェッショナルで、すぐに我に返り、腕時計を確認して言った。「もし私の記憶が正しければ、午後の最後の試験は5時に終わるはずですが、今はまだ4時3分です。こんなに早く答案を提出されたということは、相当な自信をお持ちなのでしょうね?」
2年連続で大学入試の取材をしてきた神原慶人だが、1時間も早く答案を提出する受験生に出会ったのは初めてだった。