「いいえ、ただ急に悲しくなって、誰かに話を聞いてほしかっただけ」
「そうそう華和、蒼井紫苑に気をつけて」朝比奈瑠璃は続けて言った。「今夜彼女に会ったの。彼女はたくさんのことを話してきたけど、全部あなたのことばかりで、一言一句が離間を図るものだった」
あれこれ考えた末、朝比奈瑠璃は蒼井華和にこのことを伝えることにした。
表立った攻撃は避けやすいが、陰謀は防ぎにくい。蒼井紫苑が潜在的な脅威であることを、蒼井華和に知らせなければならない。
「わかったわ、司緒」
どうやら、厄介者の一掃を急がなければならないようだ。
......
翌日の朝。
蒼井華和は早くに目が覚めた。
まだ6時だ。
まず1時間ジョギングをし、帰ってきてから身支度に30分、食事に30分、それから空港まで30分かかる。
10時発の飛行機なので、8時半から9時の間に空港に着けばちょうどいい。
9時ちょうど。
蒼井華和はスーツケースを引いて、時間通りに空港に到着した。
3時間のフライトを経て、飛行機は河内空港に着陸した。
橘忻乃と結城詩瑶はすでに到着ロビーで待っていた。
蒼井華和が出てくるのを見て、二人は興奮して手を振った。「華和兄、こっち!」
蒼井華和はスーツケースを引いて近づいた。
橘忻乃は蒼井華和の手からスーツケースを受け取り、笑いながら言った。「今日の便は時間通りね」
「そうね」
結城詩瑶は蒼井華和の後ろを覗き込んで、「華和、司緒は本当に一緒に帰ってこなかったの?」
朝比奈瑠璃が冗談を言っていて、サプライズをくれるのかと思っていたのに!
まさか本当だったなんて。
蒼井華和は頷いた。「うん」
橘忻乃が言った。「司緒って、実の両親に騙されてから、随分変わったと思う。笑顔も少なくなったし、話も少なくなったし」
以前の朝比奈瑠璃は明るく活発な人だったのに。
結城詩瑶はため息をついた。「このショックが大きすぎたのよ。彼女があんなに家族を求めていたのに...はぁ...」
朝比奈瑠璃のことに触れて、蒼井華和も少し悲しくなった。「これからは司緒の前でこの話は絶対に出さないでね」
「うん」結城詩瑶は頷いた。「わかってる」
橘忻乃は続けて言った。「そうそう華和、今回はどこに泊まるの?うちに来ない?」
「いいえ、海珠の前の場所よ」