この世界では、誰も誰かがいなくても生きていけないわけではない。
蒼井陽翔は一瞬固まった。
彼は、蒼井華和がこれほど譲歩しないとは思わなかった。
もし蒼井紫苑なら、絶対にこんな態度はとらないはずだ。
やはり。
蒼井華和は自分を兄として見ていなかったのだ!
蒼井陽翔は篠崎澪を見て、「母さん、見てください。本当に彼女を厳しく躾けなくていいんですか?」
「自業自得よ!」篠崎澪は容赦なく言い放った。
またこうだ。
蒼井陽翔の心は冷え切った。
何が起きても、是非を問わず、両親はいつも躊躇なく蒼井華和の味方をする。
そう言うと、篠崎澪は蒼井華和を見て、「紅音、あの子のことは気にしないで。頭の悪い子だから。あなたも一日中疲れたでしょう。早く上がって休みなさい。何があっても、お父さんとお母さんはあなたを信じているわ!」
「うん」蒼井華和は軽く頷き、階段を上がっていった。
蒼井陽翔は信じられない様子で篠崎澪を見つめた。
目には失望の色が満ちていた。
この家には、もう公平さなんて存在しない!
そのとき、蒼井遥真が外から入ってきた。「母さん、ニュース見ました?高城ママがニュースに出てた女の子の養母みたいです!」
「何ですって?」篠崎澪もニュースは見ていたが、ニュースでは遺族の顔にモザイクがかかっていたため、その母親が高城ママだとは気付かなかった。
この知らせを聞いて、篠崎澪は大変驚いた!
蒼井遥真は続けた。「今、事件に進展があって、高城ママが殺人犯として警察に認定されたんです!」
篠崎澪は眉をひそめた。「まさか!高城ママが、どうしてこんなことを…!」
恐ろしすぎる!
「高城ママがこんな非道なことをするはずがない」そのとき、蒼井陽翔が口を開いた。「絶対に誰かが裏で糸を引いているはずだ!本当の殺人犯を野放しにしている!天網恢恢疎にして漏らさず、いつか、あいつらは報いを受けることになる!」
そう言いながら、蒼井陽翔は蒼井華和が去った方向を見つめた。
高城ママは蒼井家で十数年働き、いつも真面目で評判も良かった。彼女が殺人犯のはずがない。
だから、背後にいるのは間違いなく蒼井華和だ。
蒼井陽翔には具体的な証拠はなかったが、直感的にこの事件は蒼井華和と関係があると感じていた。
それなのに、家族は皆、蒼井華和に騙されている。